二次元に好きな男がいる。
所謂夢女というヤツではあるが自分との諸々を妄想するとかそういうのではない。ただ推している。ゲームの中だけど応援している。
彼は軽薄な男だった。言動はキツく、適当で、誰とも慣れあわず、周囲にヘイトをかましては去っていく。そんな男だった。
当然彼の事を「苦手」と言う人も居たし私も当初は「なんだコイツ」と思っていた。
ただそんな彼にも重い過去や事情があり、経験からあえて人を遠ざけている寂しい男だということを知った。
誰も居ない場所で一人涙を流している姿を見て惹かれた。
厳しい言動も優しい心根からくるもので、誰にも鬱々とした面を見せないように努めている。寂しい男だった。
そんな彼を好きになり、グッズを買ったり課金をしたりした。全ては彼が幸せになってくれるように。
身もふたもないことを言えばサービスが永遠に続いてハッピーエンドが見られるように。
で、物語というのは進めばハッピーエンドが来るもので、彼も自己の問題と向き合いハッピーエンドを迎えた。
本当に喜んだ。彼はもう一人じゃなかった。もう誰も居ない場所で寂しく涙を流す事もないのだ・・・。そう思った。
ただしここで私が考えていなかったのはハッピーエンドの後もサービスは続いていくという事だった。
問題を解消した彼は元気になって、打ち解けた仲間たちと過ごしていった。周囲にヘイトをまき散らすような彼はもう居なかった。
いい話だ。いい話なのに私はある時から違和感を感じはじめていた。
その時はじめて私は、彼の顔でも声でもなく、その性質、つまり誰も居ない場所で寂しく涙を流すような所が好きだったのだと気づいた。
己の悩みに葛藤し、人と距離を置き、明るく見えてもどこまでも寂しい、それが故に軽薄でいつも煙たがられるような男。
そんな彼がどうだろう、今は仲間に信頼され、協調し、自分のやりたい事をやって、真面目と評され、笑顔で過ごしている。
私は彼のそんな人生を願っていたはずだった。でも私の愛する彼はそこにもう居なかった。
「苦手」と言っていた人たちも「好きになった」と言ってくれるようになった。
これは本来喜ぶべきことなんだと思うんだけど、私はなんだかずっと微妙な気持ちを続けている。
そりゃあ周囲にヘイトを撒くような男と優しい真面目な男、どっちが好きかと言われれば一目瞭然だ。
ゲームを運営する側だって炎上するようなキャラより人気の出るキャラを作りたいだろう。
でもそれは同時に彼の薄暗い過去や本当の人間性を否定されているような、そんな気持ちになった。
いや、むしろ私の方が彼の事を否定しているのかもしれない。今の幸せな彼の事を好きになれないなら、私の方が害悪な夢女だ。
なんだかそんな事をずっと考えていて、推すのをやめようかなあ とぼんやり思って居る。