2020-07-09

「うちにはお金がない」母の言葉を本気で信じていた

お金持ち」というのは、フィクションバラエティ番組特集に出てくるような、豪邸に住み、ブランド物を身に着け、湯水のように金を使う人達の事だと思っていた。

きっとそういう人たちは、”何億”だとかそういう、学校で習ったけれど想像もつかないような莫大な単位の額のお金を稼いでいる。自分とは違う、遠い世界に住む人たちだ。

人口一万人足らずの町に生まれ公立学校に通い、田んぼに囲まれた片道4キロの通学路の途中で今日の夕飯はなんだろうとお腹を空かせながら考える。休日友達との娯楽と言えば、街の方のショッピングセンタープリクラを撮ること。そんなあまりにも在り来たりな日常を送っていた私にとって「お金持ち」というのは遠い存在だった。

私は田舎町の寺で一人目の子として生まれた。父親大学教授で、母親実家呉服屋専業主婦祖父母は元々教師をやっていたようだ。

私の両親は母親の方がしっかりしていて気が強かった。浪費家で行きもしないスポーツジムに入会したり、テレビショッピングを見てはお腹をぶるぶるするダイエット器具やらフードプロセッサーやらを買い集めてすぐに使わなくなる父に、母は「うちはお金がないんだから」といつも文句を言っていた。父はお金管理が下手な上にお人よしだったのですぐに人にお金を貸したり奢ったりしていた。私が友達と街の方へいかなければならなくなった時には、「鈍行で時間かけていくくらいならみんなで新幹線で行きな、全員分お金だしてあげるから」と言って友達の親を驚かせていたことを覚えている。

父はそんな風だったが、母は元々呉服屋の娘で商人気質ということもありお金に対しては厳しかった。子供に対しても「何でも買ってあげる」というスタンスは取らない。本や楽譜ならいくらでも買ってあげるけれどおもちゃゲームは別。私や弟たちがあれが欲しい、これが欲しいと駄々をこねたとき咎め文句はいつも「うちはお金がないから」だった。

「うちはお金がない」

幼かった私は、たびたび母が口にしていたその言葉を本気で受け止めていた。欲しいおもちゃを買ってもらえなかった時に母はそう言った。テレビショッピングお金を溶かす父を見るたび母はそう言った。

我が家には私のためにプレゼントされたグランドピアノがあった。

家族海外旅行に行った回数は両手の指の数を超えるだろう。

父親外車スポーツカーの二台の車を持っていた。

ファミリーレストランに行ったことがなく、外食祖父母行きつけの懐石料理フランス料理が多かった。

高校受験のために、私は安くない値段の塾に通うことを許されていた。

これだけの状況証拠がそろっているのになぜ気が付かなかったのか、今考えると恐ろしい。だが私はなんと高校卒業するまで、母の言う通り我が家お金がないのだと信じていた。

友達に「○○ちゃんちはお金持ちだもんね」なんて言われても、「でもお母さんはああいってたし」と信じていた。

馬鹿げた話だと思うだろうか。確かに自分の頭で判断することなくただ言われたことを鵜呑みにしていた私が馬鹿だったのは間違いない。

だが、スーパーが町内に一つしかなく最寄り駅までは車で20分、今のようにSNS情報を得る手段もなければ携帯電話も持っていなかった当時の私の世界はとても狭かったのだ。

私は隣町の高校へ進学し、その後県外の大学へ進学して一人暮らしを始めた。一人暮らしを始めると金銭について意識するようになった。もちろん自分家計を成り立たせることもさることながら、周りの人達がどうやって生活を成り立たせているのかも。私は学費家賃も親持ちだったがどちらも自分で稼いでいる人も少なくなかった。アルバイトを始めてみると少し働くだけでは大した足しにならず、学費家賃自分で稼いでいる人はどうやって生活を成り立たせているんだ、と果てしなさを感じた。

今まで自分が得ていた物の値段も知った。例えば旅行友達ちょっと旅行をしようとすれば大した贅沢をしていないのに数万がすぐに飛んでいく。観光客向けの値段のアトラクションなんてそうそう手を出せるものではない。その時にふと自分が今まで行かせてもらった家族旅行のことを思いだした。あの旅行では安い飛行機をわざわざ選ぶようなことはしていなかったし、ホテルだって限られた値段の中で最大限を、といった配慮はしていなかったように思う。中学生の頃リゾート地で船の上のホテルに泊まったことを思い出しながらあれには一体いくらかかっていたんだと宇宙を感じた。そうやって私は実家で得ていたすべてのものの値段についてぐるぐると考えを巡らせた。グランドピアノは確か100万くらいしたらしい。やりたいと頼めばやらせてくれた習い事も決して安いものではないだろう。お父さんが持っていた外車、あれもすごく高いヤツだ。そうやって考えを巡らす中で、小学生の頃に出された「親の職業について調べましょう」というありがちな宿題を思い出す。父は仕事の内容について教えてくれた後、お金価値も分からない私に自分年収を教えてくれた。今ならわかる、その数字は決して「うちはお金がない」家庭で出てくる数字ではない。一般的に言えば高収入だと言われるような数字だった。

成人直前になってようやく私のバイアスは外れたのだ。

私は自分のこのバイアスに気が付いたときにゾッとした。公立中学に通っていた頃、私は自分と同じ家庭環境だけではない沢山の人がいる場所生活をしていたはずなのに、いかに狭い視点世界を見ていたのか。

そして自分バイアスゆえに、他人に対して無神経な言動を取ってしまたことがあったのではないかと恐ろしく感じたのだ。

大学に進学してから、私は今までよりも社会問題に敏感になったと思う。大学法学政治学を学んでいたことも理由の一つだけれど、大学交通アクセスのいいところにあったことやSNSを多く始めたためにに色々な世界を目で見ることが多くなったのも大きいだろう。私は「明日ご飯にも困るくらいの貧困」というのは日本のような先進国には全く関係ない遠い国の話だと思っていたのだが、そういった実態は確かに存在している。「うちはお金がない」と信じていた私は、実際の「貧乏」なんてうちみたいなものなんだろうなと本気で考えていた。もしそれを信じて生きていたら、「貧乏」なんて努力でなんとかできるものだろうと思いこんだまま大人になっていたかもしれない。自分のいる位置を正しく把握できていないがために他人への想像力が欠如したまま社会に出ることになっていたかもしれない。「自分はこうだからそんなの甘えだ」とか「自分だってこうしてるんだからこうすればいいのに」といった考えを持ったまま、本当にどうすることもできない状況にある人のことを想像できないまま生きていたとしたら、恐ろしいことではないか

私はこのバイアスに気が付いたあと、母親に当時のことを聞いてみた。我が家一般的に言えば決して「貧乏」なほうではないだろう。ではなぜ、私たち子供にあのように言ったのかと。咎めるつもりはなく、単純な疑問だった。

母は答えた。「油断をしないためだ」と。

「確かにうちは貧乏じゃないし、一般的に言えば高収入なほうだよね。私たちお金があるから大丈夫って思うんじゃなくて、ちょっとお金がないくらいに思っていた方が節約しようってモチベーションになるでしょ。今の現状に油断せずに引き締めて生きようって気持ちになるじゃない。お父さんは浪費家だったしね」

母は、決してその場しのぎのために「うちは貧乏だ」と言っていたわけではなかった。だが母は、そのあとこう続けたのだ。

「でも私も、最近になってやっと自分は恵まれていたんだなって気づいたんだよね」

私が大学に入ってすぐ父は亡くなった。我が家収入は激減し、遺族年金貯金生活をするようになった。専業主婦だった母は、住職仕事パート生活費の足しを稼いでいる。

最近ドラッグストア化粧品を買うようになって、今まで使ってた化粧品ってこれの5倍ぐらいするじゃん!って。お父さんに買ってもらってた時は物の価値なんて考えたことなかったし、近所の人に『〇〇さんは奥様だから』って言われてもそんなことないでしょ!?って思ってたんだけど、よく考えたらあの時は贅沢していたし恵まれてたのよね。お父さんがすぐお金使うから貯蓄があまりなかったし、”うちはお金があるほう”だなんて思ったことはなかったんだけど」

母は短大を出てすぐに父と結婚し、すぐに専業主婦になった。社会に出て働いていたのは、高校卒業してから社会入学短大入学するまでのたったの数年だけだった。

母もまた、我が家が「貧乏」ではないことに気が付いていなかったのだ。母は、完全にそう信じていたわけではないが、それでもどこかで本気で「うちはお金がない」と思って私たちにもそう言っていたのだった。母が本気で信じていたからこそ私も母の言葉を信じていたのだろう。

父が亡くなり収入が激減したとはいえ我が家明日ご飯に困るようなことはなさそうだった。母親ヨガお茶を今でも習っている。私は奨学金授業料免除を駆使して大学に通い、下の弟2人は私立学校に通っている。父が亡くなってから、私は父の大学関係の伝手から援助を得て半年海外留学に行くこともできた。父親が亡くなったことの影響は大きかったけれど、私たちはやりたいことを諦めなければならないような事態には陥らなかった。それも決して誰でも得ることのできる「当たり前」ではないはずだ。

今まで得ていた物が誰でも簡単に得られるもの努力だけでなんとかなるものではないことに、母もようやく気が付いたようだった。

このエントリを書いたのは、自分の中に長らく根付いていたバイアスの恐ろしさに気が付いたからだ。

「うちにはお金がない」その言葉は、私の認知に歪みを作っていたのだと思う。

母が悪い、と言いたくてこのエントリを書いたわけではない。単に私の思い出語りとちょっとした問題提起のつもりだ。

子供の我儘を窘めるとき、本当はそうではないのに「うちにはお金がないから」「貧乏から」という決まり文句で一蹴してしまうことは、自分が居る位置への認識を歪めてしまうのではないか

そしてそうやって客観的自分位置が分からないことにより、他人への想像力の欠如を生む可能性はないか

「うちにはお金がない」と20歳手前まで信じていた馬鹿な私は、そう懸念している。

  • ❅🐉💩

  • 他人を脅かしてオカルトで儲けた汚い金

  • 小論文? とりま『バイアス』てゆう流行の用語は日本語の熟語に置き換えられるはずだけど

  • 子どもは無意識に親の言葉を絶対だ、と思ってしまう怖さがよく分かる。

  • ちょっと違う方向性だが、自分の環境も急にフラッシュバックしたので書いてみる。 我が家も裕福だったが、本当に自分が裕福だと気付いたのは中学に上がってからしばらくたってか...

  • この内容からその結論に着地してしまうのが理解できない

  • 俺も貧乏と言われて育った 高校も大学は私立は無理だと言われていたし実際無理だっただろう 高校大学と進学するにつれ真の金持ちを見る機会が増えた そのたびに我が家は貧乏なん...

  • これもバイアスかもしれないけど、奨学金借りてるってことは今の経済状況結構やばいんじゃないの? 家庭の方針もあるからはっきり言えることは何もないけどさ

    • 優秀な学生は無利子なので借得だしものによっては成績次第で免除すらある。教育は資産とはよく言ったものだ。

  • 自慢ならリアルだけに留めておいてほしいと本気で思う。 増田に出張ってくんなよ・・・

  • だいぶ前に話題になってた「中流東大生」思い出したわ 炎上後「いや中流というのはこういう意味で使ったんです」ってピント外れな主張始めたのが最高にダサかったし、周囲の取り巻...

    • この増田は好感持てるけど、結局自分を年収やら学歴やらで中流だとか位置付けるならまずは統計見て全体像を把握しろよってことなんだよなー。上でも下でも全体の中での位置付けを...

  • 寺に生まれた時点で金持ち決定だからなぁ。 そもそも寺の子どもとか何だよって思うけどな。 戒律も守れないのに坊主の何を信用しろって言うんだよ。 庶民が軽自動車に乗って保育園...

    • 桜デンブは贅沢品で、ウチは買うてもらえへんかったがなー

  • 増田や増田母ははやくお金の価値に気づけてよかったね。 うちの親類がまさに言えばなんでも買ってもらえる、デパコスしか使ったことがないからドラッグストアの化粧品の価格を知ら...

  • >実際の「貧乏」なんてうちみたいなものなんだろうなと本気で考えていた。 自分の学の無いのを母親のせいにすんなアホ お前は「うちには金がある」と言われてたら所謂ボンボンにな...

  • anond:20200709150934 私の親は非常にしつけに厳しい人で、生活も食事も極めて質素、海外旅行なんて行ったこともなく、国内旅行も年に1回と決まっていました。 当時私は飛行機が好きで、...

    • 天皇にも同じこと言えるの?

    • そこまでなんでもかんでも親のハードル上げんなや。 「君はいい人物だったが、君の父上が悪いのだよ」 「君の生まれの不幸を呪うがいい」 そういうもんだよ。

      • リベサヨ職業差別主義者には何言っても無駄。 下に見ている職業を差別している自覚がないから。

    • こういう子供には無限の選択肢が与えられるべきって信仰なんなんだろう 裏目引いて落ちぶれる可能性とか何も考えてないよね

      • パイロットと私立大学医学部進学程度のことが∞なの?

        • パイロットと医者の職業維新スコアが低かったら違う選択肢を要求する人間なので無限大だよ?

    • この増田に甘ったれのガキな上に職業差別コメントしてるやつは一体何歳なのだろう。

    • それで? 医者やパイロットと同じように他の仕事にも同じ尊厳がありますが。 お前は職業差別主義者のリベサヨだから文句を言いたいだけなのでは?

  • 資産も十分あるのだから、授業料免除と奨学金の枠は他の人に譲ってやれよ。金持ちのくせにどれだけ奪うのか。それはお前のためにあるものではない。

  • 資産も十分あるのだから、授業料免除と奨学金の枠は他の人に譲ってやれよ。金持ちのくせにどれだけ奪うのか。それはお前のためにあるものではない。

    • ほんまそれだよなあ 増田は自分が金持ちな家庭なのを自覚しただけでまだ貧富の差の実態は理解できてないよな まあ自覚できただすごいとは思うが

    • 海外留学費できる金額を支援してもらったら普通奨学金減額&授業料免除取り消しだよなぁ 最近のコロナの影響で学費補助する大学多いけどコロナの影響で給与所得が半減することが条...

      • 1400万円稼いでる人はたくさん税金払ってる 450万円の人はそれにくらべて少ないでしょう 支援の財源は税金なわけだからたくさん税金払っている人を支援すべきなんじゃないの?

        • 税金は会員費とちゃうからなあ

        • 税金じゃないが? それに支援されるのは親の家計じゃなくて学生 年収1400の親が税金を払ってるのであって大学生自身が払ってるわけじゃないのになぜイキリ散らせるのか

  • 多様性のない人間関係築いてる子にありがち。せっかく公立だったのにもったいない でも今気づけたのはよかった。いつまでも親の言うことを間に受けてると就職や婚活で苦労する

  • 普通の日本人の普通の子供時代 ふつうですよふつう

  • ???「勲章もないのに金持ち気取りか。フンッ、下級が」

  • うちもレベルは全然違うけど似た感じだ 父親はそこそこの企業でそこそこ高級取り おもちゃやゲームは買ってもらえなかったけど 習い事はやりたいと言えばすぐに行かせてもらえたし...

  • うちもこれ 増田みたいなあからさま金持ちではなかったけどピアノあったし親のさせたい習い事強制されて「お金がないお金がない」って言われ続けてた ピアノの練習で間違えると...

  • バイアス受けて育って他人への想像力の欠如を生むのではとか言ってるけど、みんなバイアス受けて育ってるんだよ。ありふれてる問題だよ それに問題提起とか言ってるけど、他の人は...

  • ウチも田舎でずっと「うちにはお金がない」と言われ続けてきたよ。 山も田もデカイ実家も持ってるのにね。 まぁ、田舎はそんなものかと思うよ。

  • 1-2段落でまとまっていればちょっとした読み物として他人から見て面白いんだろうけどなあ

  • 金持ちの家に生まれ育って、金持ちと気付くには時間が掛かるもんだよ。 友達にも居たよ。高校卒業してからやっと自覚してた。

  • 中学の同級生に、いわゆる「古くからの地主」がいる。収入のメインは家賃収入。昔山林だったところに大量のアパートを建てて保有している。会員制リゾートの会員権を持っている。...

  • うちも似た感じ でも幼稚園で「うちって貧乏なの」と私がみんなに言っていることが伝わると母は慌てて「中流家庭」と言い直した あとからなぜ貧乏だと言い聞かせていたのか聞くと...

    • 元増田との唯一の違いは奨学金を受け取っていたことの罪深さに気付いた点か。 それにしてもピアノの習い事を続けていてなんで貧乏だと思うんだろうね。買い物に不自由したことだっ...

  • 増田程お金持ち家庭ではないけど、自分も近い。 学生の時一回友達に何気なしに「え?普通に買えばいいじゃん」みたいな事言ってしまって、後から失言と気付いて死にたくなった。

  • >「お父さんに買ってもらってた時は物の価値なんて考えたことなかったし」 やっぱ専業主婦は駄目だと思う。男性の収入に関わらず、女性もキャリアを続けるべきだ。男女平等と言い...

  • 明らかに 「金持ちに対する想像力がない」より 「貧乏に対する想像力がない」の方が害毒 仮に俺の家が金持ちだったとしても俺の母は建前上は同じ態度を取ったと思う

    • 貧乏人の気持ちを理解できたり、できなくても想像力を働かせる心があったところで、それが何のメリットがあるの? 貧乏人とブルジョワの両方からつけこまれるだけだ

  • 派遣に告られてびっくりした anond:20200807213033 ↑これにほとんどのブクマカが釣り認定(実際釣りだったみたいだが)してるのに対し ↓これにはそういった指摘はほとんどみられないのが...

    • 害の無さそうな釣りは良くても、読んでてイラッとする釣りは許せんということだろう。

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