一月ほど前、香川県の現役高校生が同県のゲーム規制条例が憲法違反だとして訴訟を提起する準備をしている、というニュースが話題になりました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200514-00010008-ksbv-l37
ネットではこれを応援する声が幅広く聞こえました。私が見た限り批判的な反応(「訴える暇があるなら勉強しろ」といったもの)はごく少数のようでした。
また、訴訟費用をクラウドファンディングで集め、訴訟費用が集まり次第訴訟を行う、ということがニュース中で述べられていたため、クラウドファンディングに協力したい、という発言も散見されました。
それでは、クラウドファンディングで訴訟費用を集めるというこの訴訟、勝ち目はどれくらいあるのでしょうか? 私見ですが、報道を見た限りでは勝てると思える要素が見当たらないと考えましたので、以下、その理由を述べます。
報道によると、想定している訴訟の種類は「国家賠償請求」ということです。
国賠請求には「訴えの利益」とか「原告適格」が求められないというメリットがあります。特に、今回でいえば原告の高校生が18才をこえて条例の時間制限の対象外になったとしても、18才になるまでに生じた損害について、問題なく訴訟を続けられるというメリットがあります。
本件では他の訴訟類型が訴訟要件を満たせそうにないと思われるので、国賠請求が認められるかが訴訟の成否を分けます。
さて、国賠請求が認められるためには、原告に損害がある必要がありますが、本件の原告となる高校生と保護者に損害はあるでしょうか?
原告となろうとしている高校生は、どんな損害を受けているでしょうか?
まず、考えられそうなのは、「平日60分/休日90分を超えてゲームをできない」という損害です。条例制定前はこれより長い時間遊べていたのに遊べなくなったとか、ゲームを遊ぶ時間を増やしたかったのに条例のせいで増やせなくなったということがあればなんらかの「損害」を観念できそうです。それでは、このような損害は発生しているでしょうか?
これは、おそらく発生していません。なぜなら、平日60分/休日90分というのは家庭でゲームに関するルール作りをするときの目安に過ぎないからです。保護者が他の時間を定めることには制限がないですし、保護者がルールを定めなかったときも平日60分/休日90分というルールは適用されません。
では、この高校生の保護者は「平日60分/休日90分」といったルールを定めたのでしょうか? 保護者も原告として参加することが予定されていることから、この高校生がゲームをすることに対して理解があるか、少なくとも条例に対しては批判的なことが分かります。保護者は条例に基づいてこの高校生のゲーム時間を制限するようなことはしていないのではないでしょうか。
この高校生に「平日60分/休日90分を超えてゲームをできない」という損害が実際に発生しているとは考えにくいのです。
では、他の損害が何か考えられるでしょうか? 私にちょっと考えつきませんでした。(国賠訴訟では弁護士費用が損害として認められますが、それは弁護士費用以外の損害が認められることが前提です)
高校生本人に損害がないとしても、保護者の損害は何かあるでしょうか?(保護者は法定代理人として参加するだけで、独自の損害を主張しない可能性もありますが、念のため検討します)
上述したとおり「平日60分/休日90分」という目安はルールを作るときの目安に過ぎないので、「子どもにゲームを遊ばせてあげられない」といった損害は観念できません。
では、ルールを作れ、と言われたこと自体が損害といえるでしょうか。これもまた罰則がないだけでなく、「努めるものとする」と努力義務にしか過ぎないことが明記されていること、この努力義務の違反が他の法令上の義務の違反を認定する要素として考慮されるパターンが想定しにくいことからすると、裁判所が損害を認めるのは難しいでしょう。
では、他の損害が何か考えられるでしょうか? 私にはちょっと考えつきませんでした。
当時の報道によれば、この訴訟はクラウドファンディングで訴訟費用を集める予定とのことです。香川県のゲーム規制条例には問題が多く、訴訟でその問題を明らかにしたい、という人は多いでしょう。
クラウドファンディングがはじまれば、報道されてる事情以上の事象も踏まえた説明や、国賠請求以外の方法も検討して見込みがある旨の説明があるかもしれません。支援を検討する人には、そういった事情や説明を踏まえて、勝ち目がどれくらいあるものを支援しているのか、ぜひ自分で考えて判断した上で支援してもらいたいな、と思います。
私は、以前、国賠請求で勝訴するためには原告に損害が必要で、その損害があるかどうかが疑わしい、クラウドファンディングがはじまった暁には、その点の説明があるかなどを確認し...