数学者になるような人は、1学んで10修める人です。彼らは、実例を計算したり、同値な言い換えを考えたりしている内に、誰に教わらずとも独自に現代数学の概念を再発見したり(場合によってはオリジナルな結果を発見したり)します。たとえば、テイラー展開を考えている内に自然に解析接続の概念に到達するとか、連立方程式を考えている内に行列式の概念を独自に発見するとかです。
これはそれほど難しいことではありません。数学が好きな人が普通にしているようなことを習慣的にしていれば、いくつかあるものです。つまり、具体例を考えたり、別証明を考えたり、定理を一般化してみたり、仮定を除いて反例を作ったり、と言ったことです。そもそも、数学者は既存の論文に無いオリジナルな成果を出すのが仕事なのですから、これは何も特別なことではありません。
逆に、いつまでも「教えてもらう」という態度では、数学者になるのは明らかに厳しいでしょう。むしろ、上に書いたようなことをするのは当たり前であって、「指導教官の出す課題に取り組んでいれば、困難なく数学者になれる」などと思う方が異常ではないでしょうか。
ところで、こういうことができる人というのは、一日に何時間くらい数学を勉強しているのでしょうか。この答えははっきりしています。
「寝る時間以外ほぼ全部」です。
数学者になるような人のほとんどは、数学が楽しくて仕方なく、気がついたら数学に没頭しているような人です。机に向かって本や論文を読むだけが数学の勉強ではありません。彼らは食事中だろうと入浴中だろうと一途に数学のことを考え続けています。
正直、「数学を勉強しよう」なんて意識している人は、あまり数学者に向いていないと思います。世の中にはもっと楽な道があるのですから、そちらに進んだ方が得です。国立大学の教授なんて、就職倍率は何百倍もあり(それも東大等の中でも極めて優秀な人材の中で)40代後半になってやっとなれるのが普通なのに、年収900万かそこらです。大企業や外資系企業等に就職する方がよほど理にかなっています。
数学者になること自体は、そんなに「天才」でなければいけないということはありません。
があればなれるんじゃないでしょうか。誰でもなれるとは言いませんが、天才である必要はありません。数学の世界での天才というのは、もっと常軌を逸した人たちです。
日本の大学生の多くは、大学に入ったら何も勉強しません。40人のうち約半分が、1〜2年生の勉強にすらついて行けず、以降はギリギリの成績で単位をなんとか取るだけで、何も身に付けずに卒業していきます。
数学で最新の論文が読めるのは早くて学部4年の後半、ふつうは修士1年の後半から2年です。したがって、それまではセミナーで教科書の講読をします。このただの「読書」が、最低限の水準でできるのは、40人中10数人です。最低限の水準とはつまり、
等です。あとの30数名は、セミナーの体を成していません。数学者を目指す場合、まずこの「同学年の上位10数人」に入り込めるかどうかが1つの肝になります。まあ、これは普通に勉強していれば余裕できます。
昔は、この上位10数人だけが大学院に行き、そのうちの半分くらい(全体の上位1割くらい)が学者になったようですが、今は(少なくとも私の周りでは)もっと厳しいです。ポスト自体が少ないのと、大学院生のレベルが下がったので周りに吊られて気が緩むのが原因のようです。
というか、これは別に数学に限らない。 人文社会学系のなんちゃって学問の世界は知らんが。