2020-05-24

ベーシックインカムから快適な配給制

https://anond.hatelabo.jp/20200521211842

当初政府はその問題を、不況と同じレベルで考えていたらしい。時代適応できない事業が淘汰され、自殺者が増えても、全体としてはやがてバランスが取れていくだろうと。

エコシステムってやつね。何かが壊れたり死んだりしても、時代に沿った形で自然復元し、バランスが保たれるはず、そう考えたのよ、政府は」

ところがそうはいかなかった。専門家の試算によると、復元不可能なほど、人も事業経済的理由死ぬことがわかった。あるいは海外に身売りする企業が増えるだろうと。実際、その兆しが見え始め、政府支持率も落ち始めた。

焦った政府は、そこで本格的に救済措置検討し始めた。それまでも単発的な給付金や貸付などは行っていたが、それでは間に合わなかった。

「結局いろいろあった後に、有望な事業は国が保護することになったの。うーん、半分国営化みたいな感じ?」

その経緯についてもっと詳しく聞きたかったのだけど、サタさんは「カショウに聞いて」と言って、説明を端折った。

一方、個人に対しては、継続的給付金、つまりベーシックインカム検討され始めた。

「その話が出たとき、もうみんな大盛り上がりだったわよ。そんなのできっこないって言いながら、本心ではみんなワクワクしてた。でもやっぱりね」

そうはいかなかった。財源が足りないのは明白だった。

ベーシックインカムの話が出るずいぶん前に、政府マスクと一時給付金を配ろうとしたの。でも、IT化の遅れのせいで、あちこちトラブルが起きたの」

IT化の遅れ。これはカショウも言っていた。簡単にいうと、それまで政府は、既存産業エコシステムに気を使いすぎて、新しい技術を取り入れることができなかったらしい。あと、かたちを伴わない情報データを軽く見ていたのも、IT化が遅れた理由ひとつだったと。

「そんなときおとなりの国がね、IT専門家――専門家って言っても学者というよりガチコード書くプログラマのほうね――を招き入れて、マスクをみんなに、均等に行きわたらせることに成功したの!」

その様子を見た役人か誰かが、本格的なIT化と、配給制検討することを政府に進言したらしい。そこではじめて、その技術価値に見合う予算が組まれ、実務的なプラン技術の選定が行われた。どういったリーダーエンジニア必要かも、“おとなりの国”を参考にして割り出し、その発案者は政府を説得した。

「そんな案、コロナ以前は絶対通らなかったわ。政府は、それまでの社会の基盤となっている業界を優先せざるを得なかったから。でもそのつながりを断ち切ったのがコロナだったの。コロナが新しい可能性のリミッターを外したの」

古い社会的基盤を維持するために、新しい可能性は活躍の場を奪われていた。そのことをサタさんはリミッターと表現したらしい。サタさんは、配給制バックグラウンドに、労働力不足があったことにも触れた。

「外出や人との接触制限されるじゃない?そしたら、必然的労働力も減るのよ。労働力が減ればつまり……、モノが減るの。外国との行き来もできないから、輸入も難しくなって……」

まり資源は限られている。その資源を過不足なく、国民に行きわたらせるには、現金よりも物資のほうが有効との考えで、配給制が有力となった。

「もうみんなガッカリよ。SNSは荒れまくって。配給制って、戦争の貧しいイメージしかないじゃない?あと、社会主義っぽい感じ?完全に私たち管理されてるような?」

しか政府へのネガティブイメージは、数年後にはまったく真逆のものに上書きされることになった。

「着いたわ、ここよ」

サタさんは大きな建物を指さした。その配給所は、この一帯の集積所も兼ねていて、ここからさらに小さな配給所にも送られるらしい。サタさんたちは、たまたまこの大きな配給所の近くに住んでいた。

「よくここで買い物したのよ昔は。いろんな服屋さんとかレストランが入ってて。懐かしいわ」

今は、積み上げられた荷物以外は人も物も少なく、がらんとしている。

サタさんは並んだ端末のひとつに、自分の小型タブレットをかざした。

指輪型とか時計型とかあるけど、私、指輪時計も苦手なの。だからずっとスマホ型のを使ってるの」

サタさんのタブレットに、荷物の格納場所が示される。その案内に沿って、僕たちは移動する。

「よう!サタちゃん

初老の男がこちらに笑顔を見せる。作業着らしい服装に身を包んでいる。サタさんも満面の笑顔あいさつを返す。

「前言ってたやつ。届いてたよ」

彼はそう言って、僕たちをその場所まで案内した。

配給所では、必ずこういったおじさんを見かける。彼らはたいてい、荷物を下ろすのを手伝ったり整理したりしている。

すでに紹介したとおり、この世界では、生活のための労働というのはほとんどない。たいていはロボットによって自動化されている。

じゃあなぜ、彼らはここにいるのか。

それは、ちょっと説明がむずかしいのだけど、彼らのパッションしか言いようがない。

まり彼らは、ここで作業を手伝うことを喜びとしているのだ。誰かと立ち話をすることを楽しむものもいる。黙々と作業するものもいる。

いずれにせよ、誰かから感謝言葉や、あるいは作業のものを、自分の喜びとしている。

カショウと行った盛り場なども同じで、過去にそういった経験のある年配の男女が、食事飲み物提供を手伝っている。配給所や盛り場に限らず、こういった自主的労働は、あらゆる場所で見られる。

「昔はみんな、生活のためとか、それが普通からって理由しかたなく働いてる人が多かった。労働苦痛だと思ってる人がほとんどだった。だけど今は、楽しみや自己表現でさえありえるのよね、働くことが。自由から

ちょっとした小遣いももらえるしな」

おじさんが笑顔でそう言った。

おじさんのような有志の労働には、ポイントが付加される仕組みになっている。ポイントは、この世界通貨のようなもので、モノやサービスなど、何とでも交換できる。僕たちは基本的政府の配給とサービスだけで生活ができるので、ポイントはまさに、趣味嗜好品のためのおこづかいと言える。

「昔のポイントカードのなごりね。もうちょっと気の利いた名前なかったのかしら」

ポイントが使われるシーンとしては、誰かのハンドメイド家具アート作品と交換したり、何か作業を頼んだ時に、その謝礼として送ったり。たいていは個人取引で利用される。

おじさんは振り返って棚のひとつを指さした。

「これだ。降ろしてやる」

配給物資だけでなく、個人取引荷物もここに届く。サタさんはうれしそうに小包を受け取った。

「これ、遠くに住む作家さんの作品なの」

おじさんは自走式のカートにすべての配給物資を積んでくれた。3、4日分の食料や生活雑貨なので、そこそこの量がある。

「前回は雑穀を頼みすぎたから、今回は減らしたのよ。その代り、今回はペーパー類がかさむわね」

配給制も、最初の頃はめちゃくちゃだったが、こんなに細かく調整が利くようになるとはな。便利なもんだ」

最初はね、あれが足りないとか、システムトラブルとか、大混乱だったわよね」

機械化が追いつくまでは本当にモノがなかったしな。でもあっという間に、人間労働力の不足を機械が埋めてくれた。それに今は……、ストレスが少ないから、ストレス解消のために無駄に消費することもなくなった。そんな気がするんだよな」

「リミッターもはずれたしね」

「ん?リミッターって?」

サタさんはフフフと笑ってごまかした。

「ほんと!何もかもストレスなくてラクになったわ。昔ほら、オンラインショップサービス定期購入ってあったじゃない?あれを政府が一括でやってくれてるような感じね、今の配給制って」

そう。配給制と言っても、一律で配給されるわけではなく、その家庭の消費傾向が反映されているので、不満を感じることはほとんどない。

各家庭ごとに一定の枠があり、その枠の中でならどんな組み合わせで発注してもかまわない。そしてその消費傾向はコンピュータ記憶され、次回からの配給プランに反映されるので、放っておいてもある程度その家庭の生活傾向に合った物資が届く。

「ただ、昔ほどバリエーションがないのは寂しいわね。昔はね、石鹸ひとつとっても、いろんな企業が、いろんな色や香りのものを売ってたのよ」

「今は需要の大きいものしか作らないからな、政府の一元管理から

技術品質コスト的に洗練されたものしか作らないとも聞きました」

僕も勇気を出して、会話に参加してみた。

「昔あった企業の、すべてのノウハウ技術結集させて作ってるからな。どの製品も、最高のところでコスト品質バランスが取れてる。まあ、どれも無難個性がないと言えばそうなんだが……」

「でもちゃんと、個性的なものもあるんだから。ほら!」

サタさんはさっきの小包を開けて、中から半透明のなにかを取り出した。鼻元に近づけ、においをかぐ。中に鮮やかな花が埋め込まれているのが見えた。明らかに量産された配給品とは違う、“誰かの作品”だった。

わたしこの香りが大好きなの!はい

そう言って、それをひとつおじさんに手渡した。かすかに清々しい香りが漂う。

「いやぁオレはこういうのは……」

「じゃあ奥さんに。ふふふ」

おじさんにお礼を言って、僕たちは配給所を後にした。自走式カートの後を、僕たちはゆっくり歩いた。

「ああいいにおい」

サタさんはその間ずっと、“誰かの作品”を鼻に押し当てていた。

記事への反応 -
  • 時々思い描いてしまうコロナ終息後の世界をメモ書き程度に残す ・テレワークが加速する  ・独身のテレワーカーは少し広い物件を探すようになる  ・通勤に使用されていた4輪,2...

    • 第1話 最適化されたシステム あの災禍のあと、僕たちの社会は随分変わった。 そう、今あなたたちが渦中にある災いだ。 あれから鉄道は人を運ばなくなった。そのかわり、モノを運...

      • 11話 あの日、この国のリーダーは、世界が二度ともとに戻らないことを宣言した。緊急事態宣言の解除。それが新しい時代の合図だった。 彼は“新しい生活様式”という言葉を使っ...

      • ま、ムリだな。

    • 何も変わらないよ。間違いない。

    • 収束しないよ

      • します

      • しろ

      • コロナが「収束」ってまんまクラスターやんけってね。 ところで俺クラスターっていうといちばん好きなのはR-7なんすよ。 ボストチヌイ行きたかったのに・・・

        • 心配せんでもイーロン・マスクが何度も同じ失敗繰り返してるからまたバイコヌール見に行けるようになるだろ

    • 学生は同じ学年をもう一度繰り返す ただし幼児は留年する必要が無く、普通に小学生になるので 現在の小学1年生と重複して、小学1年生は倍の人数になる 後にコロナ休学によって留年し...

    • ・Basic Incomeが基本になる事で、労働人口が現象し、 新社会主義と呼ばれる ・日本も世界も出生率上昇 ・TPP廃止 というかフェイドアウト ・EU、貧困国とドイツ以外は離脱し、ドイツ連合...

    • 今後は厚生労働省の発言力が高まりそうだよね。 今まで農水省以下の不人気官庁だったけど、予算100兆円規模で経産省並みになる。

    • 都心部の待機児童問題が改善する なんで?

    • 公共交通機関が忌避されて四輪・二輪はむしろ売れるんじゃないか? 都内だと電動折りたたみ自転車が流行りそう。

    • そんな形でコロナが残ることはないよ。他のコロナウィルスのように、風邪の一種になる。 今年中に一定のワクチンと、アビガンなどの治療薬ガイドラインができて一旦収束するが、医...

    • コロナイゼーション(シビライゼーションの奴)の意味が変わってしまう未来がくる!

      • シムシティのコロニーなんかも密すぎるってことで削除されたりして

    • コロナは終息しないよ。 コロナとともに生きるんだよ。

    • 中国とアメリカの立ち位置が逆になる

    • ・海外への渡航に検温とコロナ罹患歴が書かれる ・派遣の条件にテレワーク可能が加わる ・車は都心部で所有が増える(外出用) ・レジカーテン文化は残る ・コロナ絡みが保険に加わ...

    • コロナ終息後の世界(中世ジャップランド以外)

    • 収入が安定している公務員が貴族階級並みに羨望の的に

      • 公務員の待遇に届かない中小企業勤めが公務員を叩くのは自然の摂理。 トリクルダウンはないのだから公務員を叩くのは当然だ。

    • おそらく結婚ラッシュ出産ラッシュが起こると思うんだけど、アビガンの催奇性を考えると障害持った子供が増えそうで心配

      • なんで?障害者が存在すると不都合な差別主義者の方?

      • 飲むの止めて(=治って)暫くすれば催奇性も消えるんじゃなかった?

    • いかにもな単語ちりばめてるけど、全体的に雑すぎない? 多国籍ベンチャー? それベンチャーじゃないし・・・ 社員が多国籍ってんならすでにいっぱいある 鉄道会社が撤退してその...

    • エアカーもないしチューブトンネルもほとんど実用化しなかった。 イルカの代わりにコロナが攻めてきただけ

    • レジ前や受付の透明シート。 お客様や来訪者の酷い口臭を嗅がなくてするので、店員さんや受付嬢に大人気。 感染予防の建て前のもと、終息後も当たり前のように設置されたままとなる...

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    • なるほど。 確かにコロナが終息した後にも、様々な問題が生じている可能性がありますね。 コロナの前 コロナの最中 コロナの後 の3期に分けて、それぞれ課題を列挙して、解決策...

      • コロナ後の世界 - 内田樹の研究室 http://blog.tatsuru.com/2020/04/22_1114.html   ■「独裁か、民主主義か」という歴史的分岐点 「コロナ以前」と「コロナ以後」では世界の政治体制や経済体制は...

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          • 直接指名制だったら進次郎が大統領になってたぞ。それでいいのか?

            • それでいい。 安倍も進次郎も世襲の無能。 トップが無能でも、大統領制の方が安全装置が働く。 アメリカの有権者は必ずしも有能な統治者を求めていない。 アレクシス・ド・トクヴ...

              • 大統領制というか変な人気だけある奴にポストだけ与えて何もさせずに飼い殺すポジションでもあったらいいなと思ったりする アベも進次郎も最初からそっちにでもぶち込めばよかった...

              • チャウシェスク「ほーん」 ルカシェンコ「ほうほう」 マドゥロ「へーっ」

              • まずは自公を解党させない事には話が進まん

          • 大統領制にしたほうがいいんじゃないか、っていう妄想、日本の総理大臣制に絶望するとたいてい考えるんだよね。 けど、韓国やアメリカやフランス、あるいは南米や東南アジア諸国と...

            • 日本は「ご先祖様」=日本人は全員○○家の子孫・親戚、という発想の民族なので、共和制と合わないのかも。 将来的には直接民主制に移行した方が良い。過渡期の間接民主制として、...

          • その国会議員は国民が選んでるんじゃが…

            • 日本は教育に失敗した国家。 学校は社畜を量産する牧場。 一部のエリートだけが海外留学して、欧米人並みの知性・教養を備える。 このままでは、時代遅れになって日本は淘汰される...

              • 消極的・間接的含む安倍支持者が未だにこんなにいる時点で日本の教育は終わってる

        • 憲法改正は、東京オリンピックが失敗して、責任転嫁をコロナのせいにして、コロナに対応できる憲法を作る=中国のような独裁国家にする、という流れになるのでしょうか? 国民一人...

        • 残念ながらコロナは、国民の大半が「知的」な行動を取れる水準に満たない知能レベルだというのを明らかにしてしまった 高度な民主主義を運用する能力なんてどこにも存在しないのだ...

    • インフルエンザみたいに周期的に流行して死人を出すクソウィルスとして定着する未来のほうがありそうなんだよなぁ・・・ 風邪って免疫つかないやん? コロナの基本は風邪のウィルス...

    • ・「内職詐欺(在宅ワーク詐欺)」が増える ← まじで嫌だ ・外国人技能実習生は来なくなる ・中国製品の輸入が減り国内生産に回帰 ・その結果人件費が高くついて何でも値上がり ...

    • 抗体のありなしで就ける職が決まる 抗体ありのコーディネーターと抗体なしのナチュラルの二項対立の世界に向かうのか なんか胸熱 種割れがスーパースプレッダー的なwww

    • コロナ就職後の世界 みんなから嫌われる

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