上京して来て住んでたとこの近所に小さい山があったんで、休日に散歩したことがある。薄暗い林道の中に小さい祠みたいなのがあって、「趣あるなぁ」と思って見てたら、なんか書いてある。落書きっぽい。気になって目を凝らして見たけど、字も汚いし、カタカナで文節もわからない。でも気になって考えてたらやっと読めた。
「ヒロヒト 人ゴロシ」
だった。
教養のない自分は「ヒロヒト?ヒロヒトって誰だろう」とか呑気に考えてたけど、それでもすぐに「あっ、昭和天皇か」と思い当たって背筋が凍った。幽霊なんてこれっぽっちも信じていないのに、なんだか急に恐ろしくなって、そのまま走って帰ってしまった。
誰が書いたかわからない。男か、女か。大人か、子供か。日本人か、外国人か。金持ちか、貧乏人か。しかし一つだけ確かに感じたのは、そこにあった剥き出しの憎悪だ。平成生まれの、戦争なんて教科書でしか知らない、平和な時代を過ごした自分には、こんな感情は死ぬまで縁がないと思ってたんだよ。