絵柄がイマイチだなと思って敬遠していたが、つい最近読み始めた。
さて、キングダムにはさまざまな魅力的な武将、人物が出てくる。
キングダムは史実をもとにアレンジしている。当然と言えば当然であるが、そのアレンジも歴史の流れを理解する能力がなければ魅力的な人物を描くというのは大変難しいと思う。
中国に伝わる物語をアレンジした漫画といえば封神演義を思い出すが、あちらに関してはどうやって物語を着地させるのか、そっちが気になって仕方がなかったのを覚えている。ただしキングダムに関しては仙術のたぐいはほとんど出てこないので、超技術でどうこうという話にならないのが確定的な分、安心して読んでいられるのが救いと言えば救いか。
さてそんなキングダムのキャラ、読者はそれぞれお気に入りの人物がいると思うが、私なりにいろいろ考察したことをつらつらと書いていこうと思う。ちなみに私は史書(原作)を読んだことがないので悪しからず。
・信
三国志なんかでもそうだが、古代中国の人物の名前は概ね姓名各一文字の二文字の名前が多く、稀に姓が二文字の人物が出てくる、という感じだ。
その中でも漂や信は下僕であったので、姓がない・・・のかと思ったが、騰はまだしも貴族の出である壁など、意外と一文字の人物が出てくる。
彼は最初、政を助けた後に将軍職を望むが、説得されて結局は戸籍と家をもらうことになる。あまり細かくは語られていないが、これはかなり重要なことだと思う。
物語が進んでいくとよくわかるが、各将軍には有能な副官、部下がいる。彼らの働きこそが将軍たちを支えているのであり、将軍単体でまともな仕事をする人物というのはなかなかいない。ヒョウコウはとくに優秀な副官らしい人物は出てこずヒョウ公自身がひっぱっている感じで描かれているが、その裏では岳雷をはじめ彼のことを理解し補佐する副官たちが存在したはずだということはわかる程度になっている。
仮にあの時点で信がポンと将軍職をもらっていたとすると、部下のいない将軍が出来上がる。それでは夢の大将軍にはなれないので、イチから始めなさいと言われたわけだ。
当時は下僕に限らず、よっぽどの家に生まれない限りはまともな教育など受けられないはずだが、それを差し引いて考えてもおバカなのである。
物語上、登場人物にとっては当然のこと、常識であっても読者にとってはそうでないことを説明させるのに便利なのだ。キングダム内に置いては、特に地理の説明などに重宝していると言えるだろう。また、序盤はそうでもないが、それなりに話が進んでくると登場する人はたいていそれなりの役職にいる人=優秀な人であるので、説明せずとも理解しないで話が進んでしまうこともままある。それでは読者が置いてけぼりになってしまうので、主人公、あるいはそれに近い人物が物を知らないのは大事なのだ。他の作品で言うと、ワンピースの主人公ルフィはおバカなので、要所要所でナミやそのほかの人に解説を受けている。(その多くをルフィは理解していないが)
・昌文君
彼と王の出会い、心酔するに至るエピソードは明らかになっていない。あえて言うなら紫夏の回想のくだりで初対面を果たしているはずだが、その部分はあの話にとって重要ではないのでまったく語られていない。
登場時点ですでに文官に転じているため、基本的に戦闘シーンはない。時代的にも文官だからといって剣は持たないというようなこともないので、ちょくちょく佩剣しているのを見かけるが、信のように一騎打ちするシーンは出てこない。
(元)武官らしい働きをするのはサイの防衛戦くらいか。彼が武官としてどの位置まで上がったかも今のところ語られていないが、風向き有利な西壁において抜かれている辺り、やはりそんなにでもないのかな・・・なんて思ってしまう。
文官としても、時折シシに諫められていたり、超一流ではないことを伺わせるシーンが折々に挟まれている。リシに頭を下げるシーンなど、彼が文官として(も)頂点に上り詰めるほどの才がないことを強く感じさせるが、そんな完璧超人でない部分が重要な人物であるように感じる。完璧でないからこそ彼の脇を支える壁やシシの働きが際立つのであろう。
信からも「オッサン」と呼ばれ侮られている感があるが(盟友である漂を殺される原因となった人物であり、諸手をあげて尊敬することはできないだろう)、その信も昌文君こそが政を支え、自分も手助けしてくれる存在であることを認知している。特に冒頭に述べた「一の臣」であることを信すらもが認めていることがわかるシーンがある。加冠の儀を終え、アイ国軍を鎮圧したあとの「あんたの口から言ってくれよ」というセリフだ。あのシーンは呂不韋との政争の勝利宣言であるが、勝利宣言というのは勝った側の、頂点に立つ人が行うものである。つまりあの場にいる一番は誰なのかという問題であった。殺されてはならない王族を救った信でもなく、実際に反乱軍を鎮圧するのに必要不可欠であった将を打ち取った昌平君でもなく、政に長く寄り添い、支え続けた昌文君に託され(しかも信から)、彼の口から行われることに意味があった。バカな信でもそのことを理解していた。
長年の苦難を回顧し、その一部を共にしてきた読者にとって、勝利を実感している彼の姿はやはり感動的なものがある。映画版がどこまで話を追うことができるかわからないが、このシーンはぜひとも再現して欲しいと思っている。
・壁
昌文君を大王政の一の臣と評したが、その昌文君の一の臣である。
文官となった昌文君に代わり、「武」を司る人物となるべく存在しているはずだが、実際のところそのあたりはだいたい信に取られてしまっている。王センに捨て駒にされたり、食料を焼かれたりと頼りないシーンが多く、出番の割に見せ場は少ない。合従軍戦でも当て馬にされている。
しかしいぶし銀な働きで大王を支える昌文君を支えるだけあって、地味だが必要な仕事をこなし続ける。合従軍戦においてはヒョウ公と信と共に南道に入り、ヒョウ公を討たれ激情に駆られた信を諫め王都に向かい、サイの守城戦では信の南壁に続く東壁を守り抜いた。また、アイ国戦においては本人の出番はないが、旧友に根回しして軍を率いる将を確保している。
今後の彼に見せ場はあるのだろうか。
・龐煖
ある意味において面白みのないキャラだな、という感じはする。個人的には最初から最強のキャラはかなり好きなのだが、非常に自分本位なキャラであり、どうしても強さ以外に魅力がない。
が、おもしろいなと思う部分はある。彼自身が信が説得され諦めた「ポンと手に入れた、部下もいない大将軍」なのである。幸いなことに李牧という強力な参謀の駒として動くことになるためついてくる部下がいるが、もし彼がいなければ本当に裸の大将だっただろう。
そういう対比という点においてはよいキャラだと思う。
あとは気が向いたら