ラグビーワールドカップが盛り上がっているのはラグビーファンとしては何より。ぜひ多くの人に、残りの試合を楽しく観戦してほしいので、自分が初観戦の友人に対して解説する戦略的なポイントを共有したい。自分の友人は理系で、サッカーは知っていることが多く、そういった人を想定している。
一対一のスキルも見どころだが、ここでは大局的に見るために、「陣取り」と「数的優位」の要素に注目する。これだけで、ラグビーが面白く見えるはず。増田を書くのは初めてなので、そのあたりはあしからず。
サッカーから派生したラグビーだが、サッカーと大きく違うのは陣取り合戦的な要素だ。その点、アメフトとは似てるが、自分はアメフトとも大きく違う(蛇足:観戦者としてはゲームが頻繁に切れ、攻守交代がはっきりしている点ではアメフトは野球に近いと思う)
まず、基本はボールが両軍にとっての先頭である。これを規定する原則が
ノックオン=「ボールを前に落としてはいけない」もこの原則から来る反則だと思うと覚えやすい。
である。これを違反すると、基本的にオフサイドになる。オフサイドはサッカーと違い重い反則で、ペナルティキックから失点をするリスクがある。
これにより、攻撃側が、アメフトのように、味方プレイヤーを前に走らせ、前にパスを投げて陣地を進めることができない。これはスローフォワードかつオフサイドだ。一方で防御側は、ボールのラインを超えて要注意選手をマークすることはできない。愚直にボールラインまで戻って、前に出て、戻って、前に出て、を繰り返さなければいけない。(これを80分やるなんて常人はむり。)
なので、試合をみるとすぐわかるのは、防御側はボールを先頭にズラーッと一列に並んで前に出てくるのに対し、攻撃側は扇状に陣形を整えて、後ろに投げてもらえるように準備している。
トライを取るためには自分の陣地を前に進めなければいけない。そこで、ボールを持ったプレーヤーには3つの選択肢がある。
まずは単純にラン。これが基本的に前に進む手段。パワーやスピードがあれば単純に相手がいようと前に進む。
次にパス。これは後ろに投げなければいけないので陣地を失う。ただ、メリットとしては後ろから選手が走り込んだ場合は勢いがあるので、突破すれば自ら失った陣地を回復しおつりがくる。また、パスでは攻撃を外に展開できるので、数的優位ができている場合は、パス→ラン→パス→ランとつないで、前に進むことができる。けど、パスは「どこを攻めるか」という選択肢を与えているだけで、前に進むにはやはり走るしかない。
このランとパスが攻撃権を保持ながら前進する基本プレーになる。ではキック。
パスと違い、キックは前に蹴ってもいい。したがって大きく陣地を進めることができる。ただし、攻撃権を一旦離すことになる。相手陣地に蹴り込むので、相手に攻撃権を放棄する代わりに、陣地を獲得するわけだ。キックは主にスタンドオフが行う(田村選手)。
ただし、ノーバウンドで外に蹴り出すと、蹴ったところまで戻されて、かつ相手ボールから始まる。ただし、ワンバウンドさせて外に出すと出したところから相手攻撃になり、陣地を回復できる。楕円球をワンバウンドさせて外にだすのは簡単ではなく、運動量保存則が重要だ。簡単には陣地を獲得できないようになっている。
ただし、ピンチの場合、自陣22mの実戦より後ろからはノーバウンドで蹴り出してもオッケー。出たところから、相手攻撃で再開する。
あとキックにはもう2種類あって、コンテストキック(ハイパント)とキックパスも簡単に説明する。これは味方と連携して、攻撃権を相手に渡したくないが前に進めるときに使う。高校生の時にこれをやると監督から怒られたが、ワールドカップレベルだと頻繁にみられる。
コンテストキックはあまり奥に蹴らず、高くあげて滞空時間を伸ばす。そうすることで、攻撃側が落下点に行くことができ、獲得すれば相手の防御ラインの裏から攻撃することができ、大きなチャンスになる。
一方でキックパスは、高い精度のキックを使い味方に「パス」する。ニュージーランドなどが得意とするプレーだ。これはアメフトのプレーに似ているが、味方は蹴った時点でボールの後ろから走り込まなければいけないので、滞空時間も計算に入れないといけない。
これが決まればトライをとりやすいので、ゴール前、とっくにアドバンテージが出ている状態で起きやすい。
((アドバンテージ: 防御側が反則をおかしたが、すぐ止めると攻撃側に不利なので、プレーを継続させ、プレーが停滞したりターンオーバーが起きると、前の反則に戻り元の攻撃側から再開する))
陣取り的な視点は、グラウンドを縦にどう使うかという話でより大局的。数的優位は「横」の話で、どう突破する局面を作っていくかという点につながる。ここにラグビーの戦い、犠牲の精神、チームプレーが現れる。
まず、グラウンドには両軍ともに同じ15人いる。ボールを前に投げれないので、両軍入り乱れることはなく、15人マッチアップしていればなかなか突破できない。
そこで局所的に数的優位をつくり、攻撃2対守備1、攻撃3対守備2などの局面を作っていくことが重要になる。ではどうするか?
まずは近場でボールを展開し、FWを中心として相手に当たり、相手の人数を集める。ほとんどの場合でこのアタックは突破するためでなく、自分たちを犠牲にして外の数的優位を作っているのだ。これを右に左に目先を変えながら何次攻撃も繰り返す。ここで大事なのは、スクラムハーフ(田中選手、流選手)がテンポよくボールを出し、タックルされたプレーヤーは敵が寝ている間に起きて次のプレーに参加すると、グラウンドでは12vs14になったりする。
また、自分ひとりで相手一人以上あつめるには、敵プレイヤーの間に走り込むと、敵二人を巻き込むことができ、数的優位に貢献する。さらに裏に出てパスをつなぐ「オフロードパス」が繋がれば、敵を背走させることができ、さらに優位になる。
大きい相手が小さい相手に当たりに行けば、敵はサポートに行かざるを得ないので、これも数的優位を作れる。
大事だからもう一度書いた。日本は強豪国相手だと体格のミスマッチで不利になりやすいので、ダブルタックルなどで敵一人あたり、一人以上割いて対応している。なので、早く立ち上がり、フィットネスで体格的不利を補っている。稲垣選手やトンプソン選手が玄人好みなのもこういったところにある。
こうやって形成された数的優位を、主に外のスペースを使ってスピードのあるバックス(福岡選手や松島選手)が突破しにかかる。
逆に数的に不利な場合で外に回ると、プレーヤーが孤立して、ジャッカルでボールをもぎ取られてピンチを招いてしまう。
他にも、スクラム、ラインアウト、モール、ラックなど色々あるが、陣取りと数的優位を意識するだけで戦術的に観れて、ラグビーが面白くなることを期待している。