2019-09-18

よく行く居酒屋おっちゃんが亡くなった

(※個人特定を防ぐため、いくつかフェイクを入れています。)

 遺体が見つかったので書きます

 よく行く居酒屋おっちゃんが亡くなりました。

 バカみたいに波の高い日に波打ち際にいて高波にさらわれた男女を救助するため海に飛び込んで亡くなりました。男女は駆け付けた人たちになんとか引き上げられたけど、一番に飛び込んだおっちゃんは波に呑まれて見えなくなりました。

 その日は連休の最終日で、でも数日前から天候が崩れていて船や飛行機欠航になるほど風が強い日が続いてました。僕の友人も連休に合わせて遊びに来ていたんですが、友人の乗る飛行機も「視界が悪くて着陸できなければ本土へ引き返す」という「条件付き就航」で、なんとか着陸して島へ来られたという感じでした。バーベキューをしたいと友人は言っていたけど、小雨も降ってたし風が強かったので、炭も買って食材も買って準備万端だったけど諦めたというくらい、天気は悪かったんです。

 その日、昼間に展望から海を見たときものすごく波が高いと思いました。僕はこの島へ移住してきて三年経たないくらいなんですが、初めて見る波の高さでした。

 僕が事故を知ったのは翌朝でした。朝起きて、ゴロゴロしながらなんとなくスマホを見ていると、島で水難事故があったというニュースが目に入りました。しかも家からほど近い海岸です。昨日なんだか騒がしいと思ったのは事故があったからだったのかと思いました。島は毎年なにかしらの水難事故があるので、また観光客かと思ったんです。

「救助のため海へ入った近所に住む島民の男性行方不明

 この一文を見たとき心臓がゾワッとしました。ニュース記事には行方不明の島民男性の年齢も書いてあって、その年齢からまさかおっちゃんじゃないだろうなと頭によぎりました。急に不安になり、確認をしたくて島の友人に電話をかけました。

ネット記事に〇〇歳の男性って書いてあったけど、まさかあそこのおっちゃんか?」

 違うと言って欲しかったんですが、そうでした。そいつおっちゃんの家のそばに住んでいるので、すぐに情報が回ってきたそうです。

 遊びに来ていた友人には知人が海で行方不明という話はしたけど、せっかく遊びに来てくれているので詳しい話はしませんでした。その日に帰る予定だったので空港見送りに行ったとき、朝に電話をかけた友人にたまたま会って、また話をしました。

 聞いた話によると、30代の男女が岩場に座っているところ高波に呑まれたらしい。ここの海水浴場は岩場だらけで、岩場のプールから外洋に出られるようになっているんだけど、プールから外洋に出るあたりに座っていた。(バカみたいに波の高い日に海のそばにいたというのが僕はまず頭がおかしいとしか思えない。言葉が悪くてごめん。)で、波にさらわれた時に海岸トイレ掃除に来ていたおばさんがそれを目撃していたらしく、パニックになりながら駐在さんに電話をした。駐在所と居酒屋はほど近く、すぐに連絡が入り、消防団員でもあったおっちゃんは真っ先に駆け付けて、警察消防などの救助隊が到着するのを待たず、真っ先に海に飛び込んだ……

 男女は助けられて、ドクターヘリ本土へ運ばれ、一時心肺停止だったけど息を吹き返したらしい。

 おっちゃんは、救助隊がおっちゃんの手を掴んだんだけど、波の力が強すぎて海へ引き戻されてしまった。それを聞いてから涙が止まらなかった。車へ戻ってひとりで泣きました。二十年ぶりくらいにしゃくり上げて泣きました。

 おっちゃんが行方不明になっている海を見に行こうと思って、空港から帰る足で海水浴場へ行きました。狭い駐車スペースに車が10台以上停まっていて、警察消防おっちゃんの身内がじっと海を見ていました。まだ波が高くてダイバーも潜れなくて、陸からしか探せないんだと言っていました。

 実際に波を見て「この波の高さでどうして海に近付こうと思ったんだろう?」としか思えませんでした。それぐらい波が高かったんです。島民だからかるとかそう言うレベルじゃないです。台風の日の波以上なんです。

 結局おっちゃんは丸二日間海の中にいて、三日目の朝、ようやく波が落ち着いた日に見つかりました。救助隊のダイバーが潜ってすぐ、海底に沈んでいるのを見つけたそうです。

 この匿名ダイアリーで何が言いたいかって、「波が高い日は海に近付くな」これだけなんです。

 波にさらわれた男女が助かったからこんな書き方するけど、バカ観光客のために島のみんなに愛されていたおっちゃんが死ぬだなんて許せないんです。どうしておっちゃんが二日も冷たい海の底にいなくちゃいけなかったんだろうっていう気持ちでいっぱいなんです。

 波が高い日は海に入るな、じゃないんです。「海に近付くな」なんです。

 どうしてあの人たちはあんな波の高い日に海に行ったんだろう。救助隊や身内の人がおっちゃんを探しているとき、海に入りにきた学生たちがいたらしい。信じられないよね。僕がその場にいたら怒鳴っていたかもしれません。波は人間を避けてくれると思ってんのかな?それとも高波が来てもちょっと強いシャワーを浴びるだけみたいな感覚で、波に呑まれて強引に海に連れて行かれるイメージ希薄なんだろうか?

 なんかもう波はヒグマだと思ってほしい。遠くから見てると落ち着いてるみたいに見えるけど、近付いたらいきなり襲ってくるんです。近付いたら最後なんだよ。ゴールデンカムイみんな読んでるでしょ?不死身じゃないとヒグマには勝てないのと同じで普通人間は波には勝てないんだよ。

 波が高い日は海に近付かないで下さい。

 あなたが波にさらわれたら、あなたを助けるために誰かが海に入るんです。

 その人が生きて帰れるとは限らないんです。

 波が高い日は海に近付かないで下さい。お願いします。

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