2019-08-28

ガニメアンには面子というものがなかった

ガニメアンには面子というものがなかった。自分の誤りが明らかであればそれを認めるのに毫もやぶさかでなかった。自分のほうが正しかったとわかっても、ガニメアンは自己満足を味わうということがなかった。自分のほうが優れているとわかっている仕事他人がしても、彼は黙って脇で見守った。地球人には到底真似のできかねることだった。立場が逆で、傍に自分よりも優れた者がいればガニメアンは遠慮なく助力を求めた。ガニメアンは威張らず、驕らず、決して他を貶めなかった。一方、彼らは自ら卑下せず、謙遜せず、決して他に媚びなかった。ガニメアンは間違っても脅迫的な言辞を弄さず、また仮に他からそのような態度を示されたとしても一向に恐れる気配はなかった。彼らの言動ならびにその言動に伴う態度には、自身存在を主張し、優越を求めるものはかけらほどもなかった。心理学者の多くは人類社会におけるこの自己主張が、共同生活の中で抑圧された闘争本能の発揚に代わる儀式であると認めている。だとすれば、ガニメアンには人類における抑圧された闘争本能に当たる感情が欠落していると考えるしかない。

——ジェイムズ・P・ホーガンガニメデの優しい巨人

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