2019-07-11

さよならかっぱ寿司

近所のかっぱ寿司が閉店する。

理由は定かではないが、おそらく売上が減ったのだろう。

ここ数年、街にはスシローや魚米が進出してきた。どちらも何度か足を運んだが、いつでも客でごった返している状態で、対してかっぱ寿司連休中を除けば閑散としていることが少なくなかった。

俺は数年前までかっぱ寿司が大嫌いだった。詐欺同然の代替魚ばかりで、しかも鮮度も悪い。サイドメニューの品揃えやボリューム感もお粗末。

低所得者層に漬け込んで、安かろう不味かろうの寿司もどきを食わせるこの企業を最低だとも思っていた。

それを変えたのは、たった一尾の赤えびだ。

数年前、先輩に「かっぱ寿司に行こう」と誘われて、内心ものすごく嫌だったが、仕方無しについていった。

そこで先輩が何度も赤えびを注文するので、俺は「そんなに美味いんですか?」と聞いたら、先輩はこう言った。

最近かっぱ寿司は変わったんだよ。昔のイメージ払拭しようと頑張ってるんじゃないかな。まあ一つ食べてみろよ」

俺はかっぱ寿司企業努力よりも先輩の味覚を少し疑ったが、言われた通り赤えびを食べて、驚いた。

美味かったのである

言うまでもなく冷凍もの海老解凍して提供していることは分かるが、大振りかつ肉厚で、歯ごたえもよく、臭みもない。俺の歯と舌の上でコリコリッと身が弾け、ほのか甲殻類の甘みが広がった。

俺は本当に驚いた。

それからしばらくして実家に帰った時、家族にその感動やかっぱ寿司企業努力を熱く語ったが、家族眉唾と言わんばかりに、まるで取り合ってくれなかった。

「それこそうちの近所のかっぱ寿司、あそこは初めて食べに行った時は本当にひどかった。もう二度と行きたくない」と両親は苦々しく話した。

俺と同様、やはり家族もまた以前のかっぱ寿司の劣悪なイメージが頭から離れないようだった。

そんな家族も、その後『ガイアの夜明け』のかっぱ寿司特集テレビで見た途端、汚名をそそごう悪戦苦闘するかっぱ寿司社員の姿を目の当たりにしたおかげか、手のひらを返すように行こうと言い出し、ついに一家そろってあの近所のかっぱ寿司入店する日を迎えた。

家族が口々に笑顔で「かっぱ寿司、変わったね」と言うのを見て、俺はなぜか少しだけ誇らしい気持ちになったくらいだ。

家族は全員寿司が大好きで、昔から様々な寿司を食べている。今や全国に名を轟かせた有名店にも昔から通っていたし、築地や都会の回らない高級寿司屋にも何度も行っている。寿司に関しては一家言持っているその家族が、かっぱ寿司を褒めた。

そうして俺たちは一月に一回はかっぱ寿司に通うようになり、毎回様々な品を食べる内に、かっぱ寿司のいいところにいくつも気付いていった。それはたとえば、

茶碗蒸しの完成度の高さ

これは今でも驚く。しっかりとダシが香る甘味の効いた茶碗蒸しは他の回転寿司屋とは比べ物にならない。地元割烹でさえこレベルの味を食べさせてくれるところはまずない。ただ、何故か期間限定のものより通常の茶碗蒸しに限っての話だ。

揚げ物がシンプルに美味い

揚げ物はいつもからりと揚がり、香ばしいトランス脂肪酸の嫌な苦味もまったくない。フライヤーマニュアル整備や油の交換頻度に起因しているのだろう。断トツの美味さを誇った上穴子天ぷら寿司インパクト勝負大海フライ握りがメニューから消えたのは本当に悔やまれる。

ラーメンの安定感

すべての回転寿司屋において、かっぱ寿司麺類に勝てる店はない。俺はあまり麺類は食べなかったが、家族は貝の塩白湯ラーメンを毎回頼み、そのたび褒めていた。時々ぼんやりした味付けの混ぜそばで迷走したりもしたが、基本的には満足のいくような作りになっていた。何より時流に乗って何度も様々なコラボをして、気軽に有名店の味を楽しめるようにしたこと賞賛に値する。かっぱ寿司全体では一幻のえびラーメンが一番人気だったらしいが、俺はにぼしラーメンこそ最も美味かったと思う。

サイドメニューの充実ぶり

ツナを原料とした面白い風味が癖になるツナゲット、肉厚で濃厚なハンバーグ最近だとハワイアンキャンペーンガーリックシュリンプなど、商品開発部門の遊び心とこだわりが感じられる。唐揚げフライドポテトなどの定番も、万人受けするように余計な個性を出さない控えめさがあって好感が持てる。ただたこ焼きは誰も食べなくていい。

デザートの満足感

はじめこそド定番ケーキなんちゃってパフェぐらいしかラインナップは無かったものの、ある時を境にスウィーツが急速に良くなった。中でも販売終了した杏仁豆腐フロマージュ特に忘れがたい。かっぱ寿司は大体素晴らしい商品が消えてゆく。なおプリンに関してだけは、近所の店舗がだめなのか、そういうコンセプトなのかは知らないが、まったく固まらずどろどろと液状化しているのが今でも許せない。

といったようなことだ。寿司ネタに関してはあえて自分の舌で確かめてくれと言うしかない。

ただ、世間がそんなかっぱ寿司よりもスシローや魚米やくら寿司に流れていくことは仕方ないだろうという諦めもある。何故かと言えば、かっぱ寿司は今までのイメージの悪さだけではなく、純粋にやり方がとにかく下手くそなのである

まずは店作り。かっぱ改革が始まってからできた店はともかく、既存店舗は妙に清潔感に欠ける。これはおそらく蛍光灯インテリアの配色がそうさせているんだろう。

内BGMもそうだ。お得さを無意識に感じさせる心理効果を狙ってなのか、スーパー流れるようなJ-POPのクソクソフュージョンアレンジが常に流れていたりするところは正直毎回疲れる。

CMもひどい。「かっぱが変わる」みたいな内容の頃のCMはまだよかったが、最近は聞いているだけでイライラする歌付きの脳みそ空っぽCMに変わって呆れた。

接客は口調だけ丁寧な典型的な感じで特に不満は無いが、もう少しホールの人たちの労働意欲が増すような環境とか制服を作った方がいい。

後は注文端末。液晶パネルが高い位置に固定されているため、注文していると異常なほど腕や肩が痛くなるのは致命的。これは親や年寄り世代には辛いだろう。

低所得者層学生家族層をターゲットにしているのだとしても、せっかく採算度外視で質の高いネタ提供する方向に舵を切ったのならば、もっと落ち着いた居心地のいい店舗作りをすべきだったのではないか

愛おしいほどに残念さも際立つ。それがかっぱ寿司なのだ

しかしそれでも、週末は必ず激混みする地元スシローや魚米に比べれば、かっぱ寿司満足度は群を抜いている。

スシローは注文品も一緒に回ってくるシステムのせいで他のアホ客の勘違いで取られたりするし、赤えび茶碗蒸しも、かっぱ寿司ほどの感動はない。

魚米は麺類の不味さが全企業トップクラスだ。パスタ明太釜玉うどんはもはや悪夢えんがわが食べたくて仕方ない時にえんがわ軍艦を食べに行くお店だと思ってる。

それでも実家の近所のかっぱ寿司は閉店する。他のかっぱ寿司は車で20分近くはかかるので、家族かっぱ寿司に通う頻度は激減するだろう。

昔はあんなに毛嫌いしていたが、生まれ変わろうと努力し始めたかっぱ寿司にすっかり惚れ込み、応援したい気持ちもあって、何度も通った。

今後はあの赤えび茶碗蒸しがなかなか食べられないのかと思うと切ない。

過去問題があった人間企業に対してどこまでも冷たくなる気持ちは分からないでもない。だが、過ちを反省し、顧客の満足のために試行錯誤し奮闘努力している人間たちが確かに存在している訳だ。

これを読んでもし少しでも興味が湧いたら、俺たち家族の分までかっぱ寿司に行って欲しい。

さよなら、近所のかっぱ寿司。次はもっとたくさんの人に愛されてくれ。

  • 田舎に住んでるからか魚米って初めて聞いた。 スシローとくら寿司おいしいよぉ

    • うおべい有名かと思ったら違ったのかな。 おいしいよぉで笑ってしまった。 そうだね。くら寿司もスシローも頑張ってると思うしそれなりに満足はするよ。あそこまで変化を遂げたか...

      • そんなあなたの書き込みに感化されて、昨日かっぱ寿司行ったんだよ。 赤えび本当においしかったし、あさりたっぷりのラーメンもスープ全部飲みほしちゃうほどだった。 潰れちゃった...

        • びっくりした。もう浮上もしなさそうだし、と思ってほっといたら後日談が来てたなんて。 ありがとう。まさか本当にかっぱに行ってくれただけじゃなくて、赤えびも貝の塩白湯ラーメ...

  • https://anond.hatelabo.jp/20190711164949 これを読んでかっぱ寿司に行こう!🍣

    • これ昨日読んだ! かっぱ寿司近くになくてスシローしかないんだけど予約がいっぱいでアァ〜、、、、

      • 読んでたかぁ~~ お寿司ってホント食べたくなったら欲止まんないよね。 この3連休毎日お客さん多そう・・・ 

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