2019-05-17

ペペロンチーノ

たった1人だけ異性の友人がいた。もう何年も前のことだ。

わたしたちは似ていた

似すぎていた。3回だけセックスして、友達になった。

誰かと付き合うことになったらあなたわたしの中からいなくなると言うとそれだけはどうしても嫌だと言う

だって唯一無二の誰かがいないと死んでしまいそうだと言ったわたしに、それなら僕に連絡してくれと彼は続けた

そのあと彼は本当に指一本たりとも触れてこなかったので、友人になった

消えてしまいたい夜によく散歩した。

整頓されたビルの間を通ってごちゃごちゃとした住宅街を歩いた

あの家がいいとか、この家は嫌だとかよく言ったけど、互いの将来に互いが存在しないことはよくわかっていた

一緒にいたら死んでしまうと思った

彼は完成前の作品をよくわたしに見せた

お前は特別だと言っていたけれど、わたしにはなんの知識もなくてとりたて感想もなかったので、否定肯定もされないことが心地よかったのではないかと思う

あなたのことが好きなのかもしれないと言った日、彼は声を荒らげて怒った

壊してはいけない壁を壊してしまったと思った

しかにその好意が友人としてなのか、男性としてなのか、わたしもよくわかっていなかった。

ただわたしは彼に生きていて欲しかったのだ

同じように死んでしまいそうな人に

そのあとわたしもっとボロボロになって死んでしまおうと思っていると一度だけ連絡をした

から返信はこなかった。

彼もまたわたしを裏切ったのだ

しばらくしてからまた普通に連絡が来るようになって、あの時は自分も沈んでいたのだ、申し訳なかったと言われた

生きているから構わないと言って笑って許したけど、もう以前のような関係には戻れなかった

死にたいのだと隣にいる人に話せるようになった時、さようならとだけ連絡をして、友人としての繋がりもなくなった。

ずっとたってからあの日好意は人が家族に向けるのと同じ類の感情だと知った

彼の作るペペロンチーノが薄くてよかった。もしもあとひとつまみ塩が多かったら決定的に彼をあいしてしまうところだった

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