2019-05-15

エリートホームレス

どんな世界にも優劣があり、とびぬけた存在となるエリート存在する。

これは、俺が出会ったホームレスの話だ。


ホームレスというと一般的には社会的弱者であり、貧乏で、頭も悪く、不健康な爺さんというイメージだし、実際に殆どはそうだろう。

俺がまだ若く、リベラルかい麻疹かぶれ、いい気分で正義思想家を演じてた時に彼に出会った。

フリーエンジニアをやりながら、目標もなく将来が不安だっただけにすぎないのだが、ホームレスを助ける事で救われていたのは自分と言ったところがあった。



彼をAさんと呼ぶ。

たまに炊き出しに来ていたAさんは、身なりはボロでも清潔そうで寡黙な青年といった風貌だった。

いかにもきちんと教育を受けたであろう知恵の存在を感じさせる表情が印象にあり、俺から声をかけたのが最初コンタクトだった。

話をするうちに次第に自分仕事の事などを話すようになると、Aさんは業務内容に対して理解を示し、時にはあくまで控えめに弱弱しくではあるが、助言めいた事も口にすることがあった。

そういった事から、彼は専門学校などで情報科学教育を受けた事があるのだろうと推測しては居たが、実際の彼はモノが違った。

Aさんは自分がかつて使っていたという古いノートPCと、学生時代災害対策に購入したというソーラーパネル式の充電器や、どこかから手に入れたという灯油式の発電機を所有していたので、

日中は他のホームレス同様に小金を稼いだり食事を手に入れるために動きながら、夕方から夜間は電源やWifiの拾える場所を利用したりして簡単な手慰みのコーディング作業をしてると話を彼から聞いた当初は、

ほんのお遊び程度のもの想像していたのだけど、Aさんの書いていたプログラムは、そんなレベルのものではなかった。

Aさんは、情報科学専攻の学科卒業付近で、卒論の文面に関する指導教官との対話対話に耐えられず逃げてしまったのだけど、研究のものは上手く行っていた様で

その時の成果物を何年も時間をかけて拡張していた。内容を簡単に言うと、ゲームなどで用いられるIK(Inverse Kinematics)とデータベースを用いた研究の1成果といったものだった。

Aさんが言うには、研究に用いるようなモーションキャプチャーデータや、モデルデータインターネットからフリーで手に入るし、開発環境も完全にタダですむ。

何より大学からも親から社会からも逃げて、初めて研究内容が面白かったことを思い出して、再び当時のコードを引っ張り出して始めてみたということだった。

説明を受けながらデモを見ている、しがない無能フリーエンジニアにすぎない俺にとって、Aさんのその成果は衝撃以外の何物でもなかった。

物理数学なんてのは自分が苦手とする高度な知識体系だと思っていたのに、目の前にいる弱者であるはずのホームレスは、使い古した参考書と使い古された古い型のノートPCで、その世界闊歩している。

この時の驚きを想像できるだろうか?


Aさんに畏敬の念、いや嫉妬を覚えた俺は、彼からしばし遠ざかった。彼に対して偉そうな態度を見せた分だけ、彼の持つ知識技術に対して恥ずかしくてたまらなかった。

だが、やっぱりこうも思うのだ。自分の話をしたがらないAさんの持つ能力の高さを知って、世間に埋もれさせるのは間違いなんじゃと。

その後、俺の仕事を手伝ってもらったりしながら、最終的にはホームレスであることを辞めてもらう事になるのだが、ホームレスでありつづけた数年間、彼は俺から報酬を使いもせず蓄えていたので

数百万という貯金を持っていた事になる。空き缶を拾ったり、本を拾ったりしながら、そんなことをしなくても食べていけるだけの知識技術を使って、バカの手助けをする。

そんな生活を送っていたのだ。まるで仙人だ。


そんなホームレスもいたという話を、Aさんが結婚するという連絡をもらって、なんとはなく書き残したくなった。目についたら、ごめんよ。

俺はあなた嫉妬したし、尊敬もしたよ。

  • anond:20190515234341

    簡単なIKだったら簡単に実装できるよ それに関節の制限を加えていけばいいと思う 工業用のロボットとかだと、耐えられるか疑問だけどゲームなら 対象の点に向かって各関節を少しずつ...

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