中学生の頃、絵を描く仕事に就きたいと考えて、高校は美術科のある高校へ通った。一時期は絵の予備校にも通っていたし、高校の授業外の絵の講習も3年間行って、課外でもみっちり描いてきて、今、美大に通っている。
高校一年で出会った時、既に私よりずっとイラストも、デッサンも上手かった。
魅力がある絵とは、この事なのか、と思った。
私が見ても、なんとなく形がズレていたり、プロポーションがおかしいことはあったが、そのズレや歪みすら、魅力的に見えた。
彼女とは約2年半仲良くしていた。
精力的に絵を描いて、絵に関する努力を努力と思わず、全力で楽しんで制作している姿を私は間近で見ていた。
しかしながら、私は仲良くする反面、なんとなく僻んでもいた。努力を苦と感じず、グイグイ絵にのめりこめるその才能が、欲しかった。
私は高校の同学年の中ではよく言って中の上レベルの実力しかなかった。
自分では、しっかり頑張っているつもりだったし、なんなら彼女と同じ練習メニューをこなしてもいた。それでも足りなかった。
周りはみんなコンクールで賞を取る中、私は3年間一度も、何の賞も得られなかった。
コンクールの搬入手伝いと、作品選考手伝いをした後、私の作品は落選と分かり、先生からかけられた「頑張ったね」の言葉が重かったし、悔しかった。
自分は自分のペースで、と思いつつも、近くにいる天才の力を感じずにはいられず、焦ってばかりいた。
今も、焦っている。
私が大学で、迷って、悩んで描いている間も、多分彼女は進化しているし、何かしらのアクションをしている。
私はというと、この一年、新しい環境に疲れ切ってしまって、制作に身が入らなかった。
夢に向かって邁進する彼女と、同じところをぐるぐるずっと回って迷っている私。
このままではダメだと何度も思って焦った。
彼女とは、三年の夏頃からあまり話さなくなった。なんとなく、合わなくなったのでお互い離れたという感じだった。
合わなくなった理由としては、多分受験だろうと思う。それだけとも言い切れないが。
彼女は国内で一番難関の国立美大を目指していたので、春の一般受験まで気が抜けない状態だった。
対して私は比較的難関と言われる私大を秋の推薦で受けるつもりでいた。
この頃から、なんとなく、絵に対するモチベーションや、考え方が合わなくなったのだと思う。お互いに、それは違うんじゃないの?と、思うことが多くなった気がする。
私は推薦入試で、なんとか合格を勝ち取れた。クラスの他の推薦組も、殆ど合格していた。
それを感じ始めた彼女は、余裕がないのもあって、一般入試を控えた人達と推薦入試を批判し始めた。
噂で聞いただけなので、本当に批判を言っていたのかどうかは定かではないが、彼女の放つ雰囲気でなんとなくそう言いたいのは私にもわかった。
推薦で楽して受かる貴方達と私は違う、と言いたげな態度を取られた。
私の主観なので、なんとも言えないが。
私は、行きたい大学に行くチャンスが増える、という理由で受けた推薦入試を批判される筋合いは無かったし、受かったあとの過ごし方をとやかく言われる筋合いも無かった。推薦には、推薦の大変さがあった。推薦も、一般も、自分の決めた道だ。
彼女とは卒業式前に顔を合わせてから今まで、一度も会っていないが、浪人したらしいと風の噂で聞いた。
彼女の絵は、私も好きなので、頑張って欲しいと影ながら思っている。
多分、これから先も、彼女より魅力的で上手い絵を描く人とは出会わないと思うし、心から尊敬している。頑張ってほしい。
出会ってからずっと、彼女の背中を追いかけたり、彼女と自分を比べて苦しんだりしたが、もう踏ん切りをつけたいと思って、気持ちを整理するという意味で、この文章を書いた。
これから私は、彼女の歩いた道をあとから追いかけるのではなく、私の道を歩く。私にしか描けない作品を楽しく描いていく。そう決めた。