両親はかならずNHKの朝のドラマを見る。つまらなかったら見ないという選択肢はなく、かならず見る。最近の作品ではだいたい150話くらいあるらしい。1回15分。1作品を全話見るのに37時間以上かかるわけだ。そうやってNHKの朝ドラに人生の時間を何百時間も費やすことになる。
NHKは朝から低品質なドラマを垂れ流して、日本人に「ドラマとはこういうもの」という認識を与えている。当然このことは小説や映画にも波及する。日本のドラマや小説や映画が見渡す限りゴミばかりであるのは、所詮日本人は高度な表現を味わう能力を持たないだろうという認識のもとで制作されているということもあるだろうし、あるいは制作側自身がいまや何の知識も教養もない、訓練されていないど素人であるという事情もあるのかもしれない。
日本人はNHKの朝ドラがすべての基準になっているから、漫画的な過剰演出を普通のことだと思っている。物語はバカにでもわかるように丁寧に説明され、想像の余地を残さない。記号的表現による過剰演出によって視聴者は笑うべきところで笑い、感動するべきところで感動するように誘導される。制作側の意図通りに視聴者は反応する。まるで奴隷だ。なぜ制作側の意図通りに反応してやる必要があるのだろう。幼稚な表現で人を煽り立てる作品はとても不快である。こういった作品は人間を描くことも、社会を描くことも、世界を描くことも、すべてを放棄している。刺激に対して反応する虫のような視聴者にただひたすらに快楽を注入しようという意図を持って作られたドラッグのようなものだ。