兄の縁談が立ち消えになった
いや、兄と彼女が交際している事を知っているのは身内では私だけだったので、縁談以前の段階ではあったのだが、とにかく兄は彼女との関係を解消した
かつて兄は彼女を私一人だけに引き合わせていた
とても感じの良い女性で、この人を義姉と呼ぶのも悪くはないかなと思っていた
彼女も、自分は一人っ子だから妹が出来るのはとても嬉しいと言ってくれた
いったいどうしたのかと電話で尋ねたら「別れた」とだけ
納得のいかない私は兄を問い詰めた
兄は観念して私に打ち明けた
私はぎょっとした
自宅の広い庭に大型犬を何頭も飼っており、犬の鳴き声は相当なものだが、それを咎める者はいない
社長が犬の散歩をする姿を時折見かけるが、常に手ぶらである(フンを持ち帰るための袋などを持っている所を見た事がない)
とうぜん、近隣は犬のフンだらけである
また、夏になると庭で従業員達とバーベキューだか酒盛りだかを毎週のようにやっている
それは深夜まで続き、日付をまたぐ事も珍しくない
十数人もの従業員達は車を近くの路上に駐車しまくり、場合によっては他の家の駐車場を塞ぐ事もある
車を移動させるよう言うとこちらをじろりとにらみ付け、舌打ちしながらのろのろとほんの1、2メートルだけ動かすなんて事も日常茶飯事である
過去にはこんなこともあった
私たちが生まれる前、年末に社長が祖母のもとを訪れ「正月にうちで餅つきをやるが、つきたての餅が欲しければ言ってくれ」と言うので、祖母は「ではお願いします」と答えたことがあった
年が明け、社長は祖母の家へ餅を持ってくるなり「餅代、五千円払え」と言い出した
祖母は「お金を取るなんて聞いていない。お金がかかるのなら餅は要らない」と突っぱねると、社長は「お前のために持ってきてやったのにその態度は何だ!」と玄関に置いてあった亡き祖父の自転車を蹴り飛ばした
その後押し問答の末に社長は引き下がったが、その後真夜中に祖母の家に野球ボールほどの大きさの石が投げ込まれ窓ガラスが割られるという「事件」があった
要するに「そういう人」である
しかしあくまでもそれは彼女の父親の問題であり、彼女自身とは無関係なはずだ、あまりにも非常識ではないかと私は兄を責めた
兄は「仮に彼女との交際を続けたら、いずれは披露宴にあの社長一家が来る事になる。彼らと親戚付き合いをする事になる。お前は耐えられるか?お前が耐えられたとして、親父とお袋が耐えられると思うか?」と反論した
私は何も言えなかった
彼女への愛情はあったのかと尋ねると、「あったし、今もある」ときっぱりと答えた
そして「それとこれとは話が別」とも言った
彼女はまだまともそうだけど親の因果が子に報いって感じだね