2018-03-07

岡田麿里監督作品さよならの朝に約束の花をかざろう」を観た

※かなり仔細にネタバレしているので、まず最初映画を見てほしい。すごい良い映画だったので。

 こないだ映画を観たのだけれど、どうしてもよく分からない点がいくつかあった。まだ1回しか観ていないので本当はあと10回位観て考えるべきなんだろうけれど、地元映画館ではそもそも上映しておらず次いつ観られるかわからないので、諸兄に教えて欲しい。レビューのみ読みたい人は4を読んでね。

1.なんでレイリアは最後、空飛んだの?

 

レイリア視点での簡単な流れ(経過時間は大まかな予想)

里を襲撃され、連行される

 ↓ 5年(エリアルの成長から

式典でマキアと再会するも、妊娠理由に同行拒否

 ↓

まれた子をすぐに取り上げられる

 ↓??年

助けに来た仲間が殺される(クリム死亡)

 ↓??年

子に会えないまま5年くらい幽閉状態が続き(メドメルの成長から見て)、精神限界

 ↓??年

外国から侵略戦争勃発

 ↓

(死んだと思ってた)クリムが混乱に乗じて助けに来る

 ↓

彼ではなく、唯一の心の支えだった自らの子に会うことを選ぶ

 ↓

メドメルと初対面し、空を飛ぶ

 

レイリアにとって「飛ぶ」ということ

 まず、作中における「飛ぶ」というワードについて。里にいた頃の彼女自由奔放で、そんな彼女マキアに対して発した「飛ぶ(なんて言ったか忘れちゃった)」という言葉にはどこか、明るい予感に満ちていた。しかし城に幽閉されているとき彼女が同じ境遇を持つワイバーンに対し、翼を持っているのになぜ飛ばないのか…と問いかける姿は「私には翼はないのに…」という呪詛のようで、あの自由奔放な彼女の影も形もない印象的なシーンだった。その後式典を襲撃したマキア達の救出を断った彼女は、別れ際「私にはいつでも飛べる、でしょ?(なんて言ったか忘れちゃった)」と発言していて、その表情からマキアが言うところの「飛べる(物理)」とは違ったニュアンスを感じさせ、これがラストのシーンにつながっていると思われる。

 ゆえに彼女最後空を飛んだシーンは、「自らを抑圧から開放し、自由を取り戻す姿」と解釈できる。

 

レイリアにとってのクリムとメドメル

 彼女はクリムが死んだ(と思った)とき「すべてを奪われた」と感じたように、彼の死は「イオルフの民」という居場所、あるいは人とのつながり(彼女王宮内で人扱いを受けていなかった)、あるいはアイデンティティ、そういう彼女のあらゆる構成要素が失われたことを象徴している。

 またレイリアは自ら産んだ子供さえ取り上げられ、何年も会えないまま王宮軟禁され続けていた。怒り狂うさまはもはや「母性の発露」なんて生易しいものではなく、「最後希望」「自分の子供に触れたい、という(最後の)人間らしさ」「生きることへの執着」として、軟禁生活の中でメドメルへの想いが先鋭化していくようだった。彼女自身も「あの子を腕に抱いたとき感覚を徐々に思い出せなくなっていく」という実感として、自らの変質を感じ取っていたのかも。そういう文脈で考えると、マキアがまだ幼いエリアルを抱きかかえながら言った「太陽匂い」というセリフは強烈である

 その後彼女が(偶然、ではないよね)メドメルと再開したとき、メドメルを抱きしめることもなく、どちらかと言えば安堵に近い表情をしていたのは、彼女にとって「メドメルに(一度でいいから、って言ったっけ?)会いたい」という想いはすっかり変質しまっていたために”「すべてを奪われたけど、なんとか”生きること”にしがみついていたレイリア」ー「メドメルに会いたい、という願いの成就」=∅” つまり「完全な虚無」と化したんじゃないだろうか。ほんの少しでも過去イオルフの民としてのアイデンティティとか)に希望見出していれば、彼女はクリムを拒むことも、メドメルに会うこともなかっただろう。

 

レイリアとマキア

 この戦争では同時にマキアエリアルの親子関係が描かれていて、言ってみればこのお話レイリアかーちゃんマキアかーちゃんの対比(あるいはエリアルとメドメルの対比)として観ることが出来る。そしてマキアエリアル出会って約23年くらいの間に紡いだヒビオル(=エリアルの成長)に比べ、レイリアが約20年紡いだもの(メドメルへの想い)はとても虚しい。マキアエリアル出会った所から物語が始まりレイリアがメドメルとようやく会えたところで物語が終わるという対比も強烈だった。

 

で、なんでレイリアは空を飛んだの?

 以上の文脈から、「完全に燃え尽きたレイリアはまるで灰のように空を舞った…」と考えれば良いのだろうか?それも違うよね。なぜなら飛び立つ彼女はとても晴れやかで、まるでイオルフの里にいた頃の彼女が戻ってきたような、あるいはずっと止まっていた時間が動き出したような、そういうカタルシスを感じた。「自らを抑圧から開放し、自由を取り戻す姿」は、彼女が決して虚無ではなくむしろ満ち足りていた姿を描いているようでもある。自由を奪われたレイリアとの対比として描かれていた飛竜が空を飛ぶ姿を見て「なんだよ、結構飛べんじゃねえか…」と言ったところからも、上記のような心情を察することができる。やっぱりよくわからない。

2.時間残酷ってどこらへんを見れば分かるんだろ?

 

 いろいろなレビューを漁っているうち、「時間残酷さ」というワードを用いた論評いくつか見かけたのだけれど、そのワードはどこからやってきたのだろう。少なくとも私はそのように感じなかったし、作中のキャラによる発言もなかった(と思うんだど、忘れちゃった)ので、もし同様な感想を抱いた人がいたら「時間残酷さ」って何なのか教えてほしい。

3.タイトル意味

 

 「さよなら」は本作でのキーワードイオルフの民の別称から、「さよならの朝」はラストシーン、マキアエリアルの別れを指していると考えられる(エリアルを優しく照らす太陽光の入射角度から、時刻が朝であると予想できる)。このシーンで彼女は彼に対して「さよなら」を言わず、彼が徴兵に行くのを送り出すときと同じ「行ってらっしゃい」を使っている。これは「さよなら」という言葉を強く暗示していて、彼女の抱く寂しさを感じさせた。

 「約束の花を飾る」というのは、慣用句「錦を飾る」みたいな感じで「約束(=花)」を「守る(飾る)」という文節として理解するのが正しそう。マキアエリアルはそれぞれ「カーチャンを守る」「もう泣かない」という約束をしていたので、『マキアは「エリアルとの別れのとき絶対泣かない」と誓っていた』ことを、「さよならの朝に約束の花をかざろう」というタイトルは指しているのかもしれない。どう思う?

4.ヒビオル

 

 こっから本作の感想。なにより「ヒビオル」というモチーフが非常に良かった。

 もともとは「日々の出来事を織り込んだ布」を指し、イオルフの民にとってはある種のアイデンティティとして描かれている。印象的なのは、その色や長さ。最初、里で織られていたヒビオルは長く、どこまでも真っ白だった。その後、マキア商人に見せられたヒビオルは赤と黒基調とした短いもので、その禍々しさに思わず(うわっ)てなった。捕らえられたレイリアの怨嗟可視化されているようで、ヒビオルの特性を端的に表しているシーンだった。更にその後、幼いエリアルマキアに送ったヒビオルは白と黄色基調としたもので、どんなメッセージかは分からないが、子が母を思うような、とても優しく温かい心を感じた。そう思うと、里にあったヒビオルのどこまでも純白の生地が続く様は、いかに里の人達が長い間平穏暮らしていたかを感じさせる。

 そんなわけで、ヒビオルの「活字や歌とは違う性質もつ情報の伝達手段」という側面について色々考えさせられた。現実において後世に何かを残すとき用いられた手段はいろいろあり、メジャーなところでは本(活字)、音楽(歌)だが、本作ではどっちもほぼ登場しない(本は登場なし、だよね?歌は酒場での労働歌のみ)。これらの手段と比べると、ヒビオルは「感情可視化」という独特な性質を持っており、特にアニメという媒体においてキャラクターの感情表現する方法としては劇的に優れた舞台装置である。これを思いついた岡田麿里すげえってなった。

 また、マキアたまたま見つけた赤子のことを「これは私のヒビオル(なんつったっけ)」と言ったあたりから「ヒビオル」という言葉は作中でどんどん拡張されていき、だんだんあらゆるものがヒビオルに見えてくるような演出になっていたのが非常に印象的だった。例えばクリムに長年幽閉され、長く伸びたマキアの髪。それまで栗色だった髪が(昔と同じ)金色になっている様はまるで、「エリアルと苦労しながら生活した思い出」は栗色の髪に、「クリム幽閉され無為に過ごした日々」は金色の髪に織り込まれているようで、その髪を手に取るクリムはまるで彼女のヒビオルを読んでいるようだった。

 そして最後の別れのシーン。マキアが優しくエリアルの手を取りながら語りかける様はまるで、手のシワに刻まれているヒビオルを読んでいるようだった。リアルではよく「言葉では伝わらない」なんて言い方をするように、言語というのは便利ではあるが万能ではない。だからこそ、このシーンにおける「彼」というヒビオルは、彼が生涯に渡って過ごした日々を、感情も含め余すところなく「イオルフの民」であるマキアに伝えることができ、彼女もそれを受容できたのだろう。とても強烈で、救いのあるシーンだった。あと10回くらい観たい。

 んで、気になったのがタイトルそもそもこの作品はヒビオルの物語なんだから作品名は「ヒビオル」でよくね?

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