犬を飼っていたら、と思うことがある。
昔一軒家に住んでいた。
金魚くらいだろうか。金魚すくいですくえなかった人のために何匹かくれる金魚。
酸素を発生する装置だったり水草だったりを母が買ってくれて、色々やった。
夏の暑い日、赤い金魚が水の中をあっちこっち泳ぐのを見るのは目に涼しくて、べったりと床に寝転んで眺めていた。
そうした昔、犬を飼うという話があったらしい。
らしい、というのは子供達に伝えられることなく頓挫したからだそうだ。
父が大きい犬を飼いたがったが、子供である私たち姉妹が小学校にも上がらないくらい小さかったのと、父が夜遅い仕事だったので、必然的に母が散歩に行くことになり、そうなれば大きい犬は散歩が大変という理由だった。
もっとも、その話が終わった数年後に遠方へ引越しをすることになり、飼っていなくてよかったと母は思ったそうだ。
私達子供が成人した後の話だった。寝耳に水で、どういうことだと聞くと父の浮気だった。
だけど、家族の中で起きるなんて思ってなかった。
あの無口な父が、と思ったが、私はもう子供でもなかったし様々なことを想像できた。
ただ、やっぱり泣いた。母が泣いているのを見て一生許さないだろう、とも思った。
まだ両親の話し合いはまだ終わってない。
母から報告を聞くと、飼うことのなかった犬を思い出す。
飼っていればふさふさの犬が家に居たかもしれない。
散歩に行くのは大変だっただろうか。
飼っていれば、何か変わっていたのだろうか。
ふと幻の犬の毛並みを夢に見る。