2017-12-25

英語カタカナ化に見られるいくつかのパターン

まず、大前提として、

音韻論とは

原語の発音には、「意味のある区別」と「意味のない区別」があり、前者のみを区別し、後者無視するのが音韻論基本的に、ある言語ネイティブスピーカーはその言語において「意味のある区別」だけを直感的に感じ取ることができ、「意味のない区別」は意識しないと気づくことができない。

例えば、前回書いた増田( https://anond.hatelabo.jp/20171223040416 )で、「難波」と「あんな」の「ん」は違う音だけど、日本人日本語ネイティブスピーカー)はその違いを無視すると書いた。ブコメを見ると違いがわからないという声があったので、ここで解説すると、「ナンバ」のように、直後にバ行またはパ行の音が続く場合は、「ん」は「唇を閉じて息を閉鎖し、その息を鼻の穴から出す」音になる。英語であればmに相当する。直後にナ行、タ行またはダ行が続く場合は、「下を上顎にぴったりつけて息を閉鎖し、その息を鼻の穴から出す」音になる。英語であればnに相当する。

英語であれば、これも前回の増田から持ってくると、water の t と、 talk の t は日本人には全然違う音のように聞こえる。でも、英語ネイティブスピーカーにとっては同じ音。

よく、英語ネイティブスピーカーにとっては違う音なのに日本人には同じに聞こえる発音が取りざたされるけど、逆もあるということ。ある言語ネイティブスピーカーであるということは、その言語にとって「意味のない区別」はしないように訓練されているということを意味すると同時に、「意味のある区別」はするように訓練されているということ。 r と l の区別が難しいのは前者の例だし、 water の t と talk の t が違う音に聞こえるのは後者の例。

同じことは日本語を学んでいる外国人にも言えて、例えば、「難波」の「ん」と「あんな」の「ん」韓国人にとっては「違う音」なので、韓国人が別の単語を持ってきて「この『ん』はどっちですか?」なんて質問すると、日本人は「は? 『ん』は『ん』でしょ?」となる。韓国語なら「オッパンカンナムスタイル」の「カ」と「ネガチェイチャラガ」の「ガ」は濁音と清音から違う音だけど、韓国語にはこの区別はないか韓国人は「同じ音」と思っている。

英語カタカナ化では、「英語において区別のある音は区別し、区別のない音は区別しない」というルールが概ね採られていると思う。いわば、英語カタカナ化とは、「英語音韻論カタカナだけでシミュレーションする」試みと言える。

ルール実例

以下、いくつか一般的だと感じるルールリストしてみようと思う。なお、発音記号は、New Oxford American Dictionary に基づいている。

母音

アメリカ英語には短母音と長母音音韻上の区別はないので、ある音を長めに発音しても短めに発音しても同じように理解される。カタカナ語はこの事実を利用して、長音記号区別することで、合計10種類の母音区別できるようにしている。なお、10種類でも英語音韻論を完全に再現するには足りない。実際に長音になりやすい音に優先的に長音記号が割り当てられているようだけど、全てではないように見える。

  • /ə/, /æ/ はア段

例 /ə/:sun, bus, an

例 /æ/ : cat, pat, bad

実際これらの音は「ア」に聞こえるという人がほとんどだと思う。cat は「キャット」なので「イャ段」説があるにはあるのだけど、/k/ の舌の形が日本語の「ヤ」の子音に近い為に /k/ の時だけ採用されたのかなと想像している。ちなみに英語には他に「キャ」のように聞こえる音はないので特に問題ない。/æ/は一貫してイャ段にすればいいのにと思わないでもない。

  • /ɪ/ はイ段

例:it, knit, fit

「エ」に聞こえることもある音。とは言え多くの場合「イ」に近く、また「エ」に聞こえる音は他にもあるので妥当

  • /ʊ/ はウ段

例:look, good, foot

間違いなくウに聞こえる。

  • /ɛ/, /wə/ はエ段

例 /ɛ/:get, pen, set

例 /wə/ :Quebec, sequence, quench

  • /ɑ/ はオ段

例:lot, pot, knot

「『ア』に聞こえる」という人がかなり多いと感じているのだけど、アには割り当てが他にあるので、オに寄せられたのではないか想像している。

  • /ɑr/, /ər/ はアー段

例 /ɑr/ :car, par, park

例 /ər/ :water, per, nerd

  • /i/ はイー段

例:eat, sheet, seat

  • /u/ はウー段

例:cute, cool, tool

  • /eɪ/ はエー段

例:mail, male, eight

エイ」段で書かれる事も多いが、日本語音韻上「エー」と「エイ」の区別はない。

  • /ɔ/ はオー段

例:water, talk, ball

カタカナ化する単位単語ではなく形態素

形態素とは、「意味の最小単位」。単語の中には複数形態素からなるものがあって、例えば「文章」なら、「文」と「章」にはそれぞれ意味があり、それが集まって、「文章」という単語ができていると理解できる。英語でも、American という単語は、America と、an が合成されてできている。このそれぞれのパーツを「形態素」という。

カタカナ語は、どうも単語単位でなく形態素単位でやっているように見えることが多い。例えば、today は /təˈdeɪ/ だから、上のルールに従えば「タデイ」になるはずだけど、実際には「トゥデイ」になっている。また、consequence / ˈkɑnsɪkwəns/ も、上のルールに従えば「コンシケンス」だけど、実際には「コンシーケンス」になっていると思う。

しかし、これらは例外なのかといえば、形態素単位カタカナ化していると考えると説明がつく。today は to-dayに分割できる。そして、to は 「トゥ」。(なお、これは「トゥー」になるはずなので、こっちは例外。too との衝突を避けたものと思う。)day は「デイ」なので、合わせて「トゥデイ」になる。consequence も con /kɑn/ は「コン」、sequence /ˈsikwəns/ は「シーケンス」なので、合わせて「コンシーケンス」。

カタカナ語 = イギリス英語」説について

カタカナ語アメリカ英語音韻論ベースにしているのではなく、単にイギリス英語を聞こえたまま書いただけのものではないか」という指摘が前回の増田であった。

かにapple, girl など、イギリス英語「聞こえたまま」になっているように見える単語は多数あるが、すべての単語を調べたわけではないから確定的なことは言えないが、これらの単語は、アメリカ英語音韻論説でも同じ程度にうまく説明できる。それに、water, there など、イギリス英語聞こえ方説よりもアメリカ英語音韻論説の方がうまく説明できる例もある。(イギリス英語聞こえ方説をとれば、それぞれ、「ウォータ」、「ゼー」となるはず。)

実際にカタカナ語の多くがアメリカ英語から取られたのかそれともイギリス英語から取られたのかは個人的に知らないのでなんとも言えないのだけれども、カタカナ語アメリカ英語の間にある程度の法則性が見られるという前提で、その法則を書いてみようと思った次第。

記事への反応 -
  • Water が「ワラ」のように聞こえても「ウォーター」が妥当

    英単語のカタカナ化の仕方に文句を言う増田がたまに見られる。ついこの間も、「imageは『イミジ』が正しい」みたいなことを書いている人がいた。 しかしカタカナ化というのは、音が...

    • 英語のカタカナ化に見られるいくつかのパターン

      まず、大前提として、 例外はある。 カタカナ化のルールは、「どう聴こえるか」ではなく、音韻論に基づいている。 音韻論とは 原語の発音には、「意味のある区別」と「意味のな...

    • anond:20171223040416

      英語のエナジーとドイツ語のエネルギーみたいに意味は同じだけど、カタカナが複数あるのはどう考えます?

      • anond:20171223074736

        「たまたま」ということでいいと思います。 実際にはもちろん語源が共通してるわけですが、日本語から見たらどちらも一つの外来語にすぎません。 それぞれ別々に、妥当な表記を考え...

    • Water が「ワラ」のように聞こえても「ウォーター」が妥当

      だいたい正しい だから要は、少なくとも、歴史のあるカタカナ語(変な表現)においては、実際の発声ではなく綴りと発音記号をみてカタカナ書きが決められてたってことだ 経緯と大雑...

    • anond:20171223040416

      米語英語警察です……とまでは言わないけどこういう議論の時アメリカ英語の発音の話ばっかりなの寂しい。ごめんねあんまり関係ない話で

    • anond:20171223040416

      〜rewのカタカナ表記に一貫性がないっぽいのが気になるんですが何故でしょう?crew, brew, screwあたりは[ru:]の部分を「ルー」と表記するのが最も原音に近そうなものですが、screwは「スク...

    • anond:20171223040416

      「ん」は難波となんかで別なのにカナは50音しかないの?

    • anond:20171223040416

      単に British pronunciation を元にしてるだけじゃね? 昔の英和辞書ってBritishの発音記号しかのってないし。 それに British の場合、Flapping はそんなに起こらないから、完全にウォーターと聞こ...

      • anond:20171223175931

        元増田です。 確かにこっちの方がシンプルな説明ですね。 実際の経緯(イギリス英語由来なのかどうか)は知らないのですが、「『ワラ』と聞こえたとしても」という趣旨でした。

        • anond:20171223204529

          アメリカ流の発音しか念頭に置かずに英語の発音の話をするのは、どんなもんですかね。 今の日本ではアメリカ流が主流ではありますが、全世界的に見ると必ずしもそうではないので...

          • anond:20171223211009

            元増田です。 「『ワラ』に聞こえる」と言った時点でアメリカ英語の話なんだなということはわかると思いますので、それで十分だと思います。 なお、同じようなことをイギリス英語を...

    • anond:20171223040416

      用例を見るに昨日トラバくれた増田の人だと思うけど、詳しい解説ありがとう。

    • 東京オリンピックに向けてビジネスを展開しよう!

      この機会に世界中の人に日本語を覚えてもらいたい。 日本語教室ビジネスをやってる人を全力で応援したい。 あと、せっかくなので宣伝させてください。日本語文法を英語で解説する...

      • anond:20171223192348

        ありがとうございます。つい先ほど新しい記事を載せました。(元増田)

    • anond:20171223040416

      「メイクアメリカグレートアゲイン」は勘弁してほしい make /meɪk/ America /əmerɪkə/ great /greɪt/ again /əgen/ (イギリスだと/əgeɪn/になることもあるらしいが) なので、makeがメイクならgreatはグ...

    • anond:20171223040416

      id:bottomzlifeが「カタカナは表音文字ではない」「rとlの書き分けはどうする」とか意味不明なことを言い出してますが、どう思いますか。

      • anond:20171223192906

        単にマウンティングしたいだけだろ。 カタカナは文字的には確かに表意文字だったかもしんないけど、50音という文脈でカタカナと言ってんだから、それは mora を表わす表音文字の代...

        • anond:20171223201620

          anond:20171223204109 そうですよね。 一応自分も言語やってたけど、カタカナは表音文字といっていいと思うし、 表音文字の指す音の範疇は当該言語の音韻のことだと認識してるので、彼が...

      • anond:20171223192906

        元増田です。 該当ブコメを見つけるのに時間がかかりました。 「完全な表音文字じゃない」というのは趣旨がよくわからないです。「完全な」が「どんな音でも正確に表せる」という意...

    • anond:20171223040416

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