俺は胸に温かみを感じながら、結婚式の様子を眺めていた。
そんな幸福の空間の中で、俺の近くにいた“とある出席者”はどこか虫の居所が悪いようだった。
どうやら有休をとってまで他人の結婚式に時間を使うことに意義を感じないタイプらしい。
確かに俺にとってもゲームのように楽しい時間ではなかったけど、あそこまで露骨に顔に出るってのもスゴいな。
「うーん、幸せそうだね」
俺のこの何気のない感想が、どうもジョウの癪にさわったらしい。
「そうですわね。でも、これからもそれを維持し続けることが大事ですのよ。結婚はゴールじゃありませんからね」
無粋な横槍だ。
「え? でもゴールインとかって言うけど」
「結婚した後の生活もあるんですのよ。ならゴールって表現は不適切ではございませんこと?」
「う~ん、俺にはイマイチよく分からないんだけど……兄貴、この人の言っていることってどうなの?」
兄貴の態度はそっけなかった。
まあ兄貴もOB相手にあまり角の立つようなことは言いたくなかった、というのもあるのだろう。
「なるほど~……」
俺はそれで納得しようとしたが、ふと気づいてしまった。
とってつけたような理屈だからこそ容易に浮き彫りになる、プリミティブな問題だ。
「ん?……じゃあゴールってどこ?」
「え?」
持っていた扇子を開いたり閉じたり繰り返す動作から、苦悩が見て取れるようだ。
そうして数秒後、ジョウはカっと目を見開き、大仰な動作を交えながら俺に言い放った。
拍子抜けな答えだった。
けど、便利な返しではある。
「知識は人に聞くだけでも身につきはするでしょう。ですが、それでは付け焼刃ですわ。自ら探さなくては」
大した理屈だ。
しかし、それなりに適当でテキトーな答えだったので、俺は邪推の言葉を飲み込んだ。
当然、それで俺が納得するかどうかはまた別の話なんだけど。
「なんだよ、それ~」
「さあな」
俺の「なぜなに攻撃」にエネルギーを割くことを渋ったのだろう。
「……どこにあるんだろう」
結局、ジョウがどういうつもりでそんなことを言ったのかは分からなかった。
だが俺の疑問はすでに、「ゴールはどこか」という方に体全体が向いていたのだ。
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