国王に見送られた僕は取るものも取らず生まれ育った街から放り出された。
ただの図書館司書の僕がなぜ。なんでも背中に伝説の翼竜をかたどったアザがあるかららしい。
(これは中学時代に地元の不良に石をぶつけられたときにできたものなのだが)
国王からは出がけに錆びた剣と亀裂の入った鎧兜、そして500ゴールドだけを渡された。
頑張ってポコポコ殴っていると盗賊は薬草と3ゴールドを落として逃げていった。
その後、隣町へ着くまでに2日かかった。その間僕は死にそうになりながら都合7人の盗賊を退治した。
(この国には総勢1,937,768人の屈強な成人男性から成る警察隊が各地に配備されているのだが)
町は今風の若者で賑わっていた。みな僕を避けるようにしてこちらを凝視している。
こんな大仰な鎧をカチャカチャいわせて歩いていればそれも当然だった。
(主張しすぎない無地Tとデカ目のスニーカーでコーデ全体のバランスを取るのが今夏のトレンドだ)
宿屋へ泊まると僕は疲労でベッドへ倒れ込んだ。
体が痛い。節々が熱を持っている。血の味が口の中へ広がっている。
混濁した意識の中でうなっていると薄い壁を通して隣の部屋から男女の声が聞こえてきた。
「めちゃくちゃ可愛いよ」
「あっ…!あぁっ!そんなとこ恥ずかしい…」
(僕の小型電子ファイルには先日B級アイドルからセクシータレントへと転身したエレナ・レナの動画が入っているのは内緒だ)
何かがおかしい。僕の人生は何かがおかしい。でも何がおかしいかは分からない。
とりあえず早く眠りについてしまおう。
明後日はミズムシの泉へ足を伸ばそうか。
その次は、
その次は、、
その次は、、、
僕にはやらなくてはいけないことがたくさんある。