品川から新大阪に向かわないといけないのに、ぼーっとしていて東京行きの新幹線に乗ってしまった。
疲れていた。
品川駅で大量に降りてくる乗客をみておかしいと思わなければいけなかった。
品川駅から自分以外誰も乗っていないことに気が付かないといけなかった。
車両に入ったとき感じた、疲れた中年たちの匂いに何かを感じなければいけなかった。
購入した指定席にはすでにおじさんが座っていた。
靴を脱ぎ、臭そうな足を投げ出して、リラックスしていた。
そこで気がつけばよかったのに、おじさんに自分の切符を見せて「そこ僕の席ですけど」と言ってしまった。
ちょっと、いや、かなりムッとした口調で言ってしまったために、おじさんは引いていた。
そりゃそうだ。
おじさんは後数分で到着する東京駅で降りるわけで、なんでこんなタイミングで席が違うとか言ってくるんだと、頭がオカシイやつなんじゃないかという警戒した空気すらあった。
僕が満足して席に座った瞬間に聞こえてきたアナウンス。
乗車してからの違和感の謎が一気に解決していくカタルシスと、自分がおじさんにとってしまった傍若無人な振る舞いの恥ずかしさがごちゃまぜになって死にたくなった。
おじさんが喧嘩っ早くなくて本当によかった。
おじさん、ごめんなさい。