三十路という単語が目前に迫っていた時分、もちろんそういうことを考えて同棲していた。
きっと彼も最初はそうだったんだと思う。
その日はたまたま仕事で早上がりできたので、久々に少し手の込んだ夕食を作ってそれでもまだ時間に余裕があった日だ。
何とはなしに家計簿の見直しと計算をしてみたところ額面と目の前にある現金の勘定が合わない。
とはいえ、2000円そこらだったので彼にも特に何も言わずそのままにしていた。
日用品の買い出しを彼がすることもあったし、計上しそびれているかもしれないし、と。
2000円の行方は気になってはいたものの、それからは私も繁忙期に入りそれどころではなかった。
そして春先のある週末、彼が友人と花見に出かけると行って出かけた日、ふと思い出したのだ。
5000円足りない。
これはさすがに看過できる数字ではない。
しかしその日花見をしそのまま友人宅に泊まった彼と話すことはできなかった。
その2日後、今度こそ彼に話そうと重い腰をようやく上げかけたところ、額面が合っていた。
金額に1円たりともズレはなかった。
2000円や5000円は私の思い過ごしなどではなく、間違いなく足りていなかったことにこのときはじめて気が付いたのだ。
そしてその犯人は彼のほかない。
付き合いはじめから同棲をした今まで、喧嘩もほとんどなく過ごしてきた私たちだった。
私もささやかながら貯金をしていたし、彼とはいずれそういうことになるつもりでいた。
けれど、彼は私に隠していることがあった。
隠してはいけないことで。
その日の夜、私は彼にこれらの経緯を話した。
2000円足りなかった日のこと。彼が花見に行った日、5000円が抜かれていた日のこと。
そしてもし何か隠していることがあれば話してほしいと。
彼の返答はこうだった。
「お前こそ何か隠していることがあるんじゃないのか?」
どうやら彼には年上のお相手(彼曰く「ただの友達」だそうだが)がいたらしく、その女との交際費に現金持ち出しをしていたそうだ。
ちゃんとその後に返していたから問題ないだろうと主張をしてくる。
また、その人と付き合ってどうやら彼は自分が年上好きの人間だということに気付けたらしい。
自分から折れるつもりもなく、謝罪の言葉もなく、挙句の果てにはただただこちらを罵倒するだけの会話にほとほと疲れてきた頃。
私の口から出た言葉は「もう終わりにしよう」だった。その瞬間である。
「何勝手なこといって終わらせようとしてるの?逃げるの?」
どうやらスイッチが入ってしまったらしく、彼の私への積年の不満を1時間ほど聞かされた。
正直ここまでくるともうどうでもよくなっていたし、私の中での結論は全て出ていた。
そんな失意のまなざしに気付いたのだろうか。
「じゃ、おやすみ」
それが彼の最後の言葉だった。
彼はそのまま寝室に行き、就寝した。
安らかな寝顔を眺めながら、私は私が愛した男の最後の寝顔を2分ほど観察したのち、荷物をまとめ始めた。
家具家電は備え付けであったし、家計簿のお金に手を付ける気にもなれなかった。
一切折れることなく
自分の都合が悪くなると逃げ出すような