『伝奇』とは「普通には起きようもない話」が辞書的な定義みたい。
エロゲでいうとこのちょいファンタジー要素のある鍵作品は伝奇に入るか? の回答は厳密にはYesなんだろうけど
奇の部分をメインに語ってる訳じゃないし。
要は「それまでの日常に、非現実的な非日常が持ち込まれる話」みたいな定義なのかもしれない。
たぶん夢枕貘とかの「伝奇バイオレンス小説」が流行ったあたりからイメージが変わってきたんだろうけど、「竹取物語」とか「日本霊異記」とか、そういうのが本来の伝奇ですな。
ホラー的なものもあるけど、もっと広い意味での「空想物語」っつうか。
ついでに英語でいうとromanceなんだけど、こっちはこっちでまた意味が変っちゃってる。
【1】伝説、伝承(神話など)あるいは、伝説上の存在(魑魅魍魎の類、鬼とか)をストーリーに絡める
2.が分かりづらいかもしれないけど。なんていうか、気がついたら異世界に 片足突っ込んでいたという感覚、自分が正しいと信じていたものが実はそうではないかもしれないという感じを登場人物が抱くといったら少しはわかりやすいかな。
伝奇エロゲーには人ならざる者が出てくるゲームは結構あるけど、 周りの人間があっさりとそれを受け入れていて、2.の感じが出てないのは伝奇とは違うかもしれない
■『伝奇』
gooのネット辞書あたりで引くと「怪奇で幻想的な物語」とかナメた反応が出る。
これを言葉通り捉えてしまっては頭に述べたように本当に何でもアリになってしまうので少し、伝奇モノの歴史を
語っちゃおう。
そも、伝奇というジャンルの開祖としてよく挙げられるのは半村良です。
70年代のことですね。
無論、国枝史郎等の先達があってはじめて彼が浮かび上がるわけですが、
それまで単に荒唐無稽な物語として埋もれていた伝奇というジャンルを復興し、
HMにおけるブラックサバスみたいな存在なのです。(ちょっと違うか)
そこに科学的な(というよりSF的な)メスを入れることをその切り口としています。
「現代に起こる怪事件を、神話や伝説にその因を求め、解決していく」というものが、
YU-NOなんかにも通じるスタイルです。
(もっともあれはワイドスクリーンバロック的な造りをしているので、伝奇の枠に入るとは思っていませんが)
その、半村の引いたレールの上に乗ってきた後続者たちが荒巻義雄、志望田景樹、谷恒生といった人々です。
推理小説であったり、冒険小説であったりする色を添えて、独自の作品を作りました。
伝奇が半村一人のものではなく、一つのジャンルとして成長を遂げた瞬間です。
前者が格闘技の要素を、後者がスプラッタ・ホラーの要素をぶちこむことで生まれた
「伝奇バイオレンス」というジャンルは凄まじいまでの人気を誇りました。
おどろおどろしくも官能的な美女の絵で彩られたノベルズの表紙に、まだ小学生だった私は、
「バンパイアハンターDの人の本だけどエッチな表紙すぎて買えないよぅ」とか思ったものでした。
数多くのフォロワーを生み、まさしく時代の寵児となった伝奇バイオレンスですが、
80年代後半の黄金期を最後に、ノベルス界王者の椅子をミステリや仮想戦記ものに譲ったばかりでなく、
幾つか理由はありますが、一つには伝奇+バイオレンスだった筈の作風が
バイオレンスの側に大きく傾倒してしまったことが言えるでしょう。
殊にセックス描写等に関しては、ポルノ同然の有様であったといえます。
伝奇的な設定の妙にしたところでオカルティックな、とってつけたような設定をもってこなされ、
粗製乱造がなされていったのです。
まあジャンル全体の質が低下してしまったことで、ブームの終焉が訪れるのはやむをえなかったのでしょう。
さて、こうして伝奇モノは数ある中の一ジャンルに帰ってゆくのですが、
エロゲーライターにおいてもそれは同様で、「痕」の高橋龍也なんかの(エロゲーにおける)先達は、
間違いなく彼らの血を引いていると言えるのではないでしょうか。
これを読んでくれている皆さんの方が詳しいだろうと思います。
ここまで言って結局私が何を言いたいのかというと、一つには伝奇の歴史を紐解いて分かるように、
このジャンルはあらゆる別ジャンルのものと化学変化を簡単に起こすということです。
エロゲーにおいてもやはりそうで、因をクトゥルフ等に求めるものは「伝奇ホラー」、
さっきから板違いっちゃ板違いで扱いにくい痕なんかは「伝奇SF」に本来ならカテゴライズされるものでしょう。
そういう意味では寧ろ物語構造の方にその特色が強いジャンルだとも言えます。