2016-12-25

うつろな塔

 最初にそれを始めたのが、誰だったのかは知らない。

 金貨を集める仕事をしている。正確には、交換してもらう。

 私にとっては、何の価値もないガラクタ
 街で不要になったそれらを集めて辺境へ赴き、「これは価値のあるものだ」と言って、金貨に換えてもらう。

 それが悪いことだとは、思いもしなかった。

 価値観は人によって、また、地域文化的背景によって異なる。
 私は確かに、その人たちにとっての「価値」を提供しているのだ。
 そう教わったし、自分でもそう思っていた。

 集められた金貨は、街の中央にある機械に投下される。
 機械によってそれらは一枚ずつ、丁寧に積み上げられて行く。
 うず高く積み上げられた金貨の塔は、建物屋上より遥か高く、上空までそびえ立っていた。
 光り輝くその塔が、この街シンボルだった。

 ――いつか崩れ落ちて来るのではないか

 そう想像したのは、私だけだったのだろうか。



 この街に来てから、二年ほどが経った。
 地震が起こったのは、その頃だ。
 最初は、少しぐらつく程度の地震だった。それでも、地域では珍しいものだった。

 不安に思ったのは、私だけではない。
 だが、空高く伸びる金貨の塔は、わずかな揺らぎを見せながらも健在だった。

絶対に崩れることはない」

 塔と、システム管理者たちは、力強く宣言した。

 二度目の地震は、より大きかった。
 塔は再び揺らいだが、そのときも持ちこたえた。
 管理者たちは議事堂に集い、対策を講じた。

 付け焼き刃の対策の後、街は三度目の地震を迎えた。
 それは、この世の終わりかと思うほどの大地震だった。

 私たち街の住民広場に集まり、身を寄せ合った。
 街の民家や施設が、次々と壊れていった。火の不始末があったのだろう。燃え上がった家もあった。
 人々は身を縮めながら、あの塔を見上げた。
 崩れることはないという、金の塔を。

 しかし、その塔もまた、大地の怒りを耐え凌ぐことはできなかった。
 目に見えない亀裂が次第に広がり、それが飽和に達すると、堰を切ったように弾けた。
 私たちが集めた無数の金貨は、大粒の雹のように地面に降り注いだ。

 その内の一枚を拾い上げた。
 それは私の目の前で、ただの土くれに変わった。



 地震が止んだ後、街を離れる者は多かった。
 多くが生活の基盤を失ってしまたから、仕方のないことだった。

 かつての塔とシステム管理者たちは、塔の再建を約束したが、心動かされる者はいなかった。

 私も、また。

 以前、私が住んだ家があった場所には、焼け跡だけが残されている。

(終)

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