最初にそれを始めたのが、誰だったのかは知らない。
金貨を集める仕事をしている。正確には、交換してもらう。
私にとっては、何の価値もないガラクタ。
街で不要になったそれらを集めて辺境へ赴き、「これは価値のあるものだ」と言って、金貨に換えてもらう。
それが悪いことだとは、思いもしなかった。
価値観は人によって、また、地域や文化的背景によって異なる。
私は確かに、その人たちにとっての「価値」を提供しているのだ。
そう教わったし、自分でもそう思っていた。
集められた金貨は、街の中央にある機械に投下される。
機械によってそれらは一枚ずつ、丁寧に積み上げられて行く。
うず高く積み上げられた金貨の塔は、建物の屋上より遥か高く、上空までそびえ立っていた。
光り輝くその塔が、この街のシンボルだった。
――いつか崩れ落ちて来るのではないか。
そう想像したのは、私だけだったのだろうか。
この街に来てから、二年ほどが経った。
地震が起こったのは、その頃だ。
最初は、少しぐらつく程度の地震だった。それでも、地域では珍しいものだった。
不安に思ったのは、私だけではない。
だが、空高く伸びる金貨の塔は、わずかな揺らぎを見せながらも健在だった。
「絶対に崩れることはない」
塔と、システムの管理者たちは、力強く宣言した。
二度目の地震は、より大きかった。
塔は再び揺らいだが、そのときも持ちこたえた。
管理者たちは議事堂に集い、対策を講じた。
付け焼き刃の対策の後、街は三度目の地震を迎えた。
それは、この世の終わりかと思うほどの大地震だった。
私たち街の住民は広場に集まり、身を寄せ合った。
街の民家や施設が、次々と壊れていった。火の不始末があったのだろう。燃え上がった家もあった。
人々は身を縮めながら、あの塔を見上げた。
崩れることはないという、金の塔を。
しかし、その塔もまた、大地の怒りを耐え凌ぐことはできなかった。
目に見えない亀裂が次第に広がり、それが飽和に達すると、堰を切ったように弾けた。
私たちが集めた無数の金貨は、大粒の雹のように地面に降り注いだ。
その内の一枚を拾い上げた。
それは私の目の前で、ただの土くれに変わった。
地震が止んだ後、街を離れる者は多かった。
多くが生活の基盤を失ってしまったから、仕方のないことだった。
かつての塔とシステムの管理者たちは、塔の再建を約束したが、心動かされる者はいなかった。
私も、また。
以前、私が住んだ家があった場所には、焼け跡だけが残されている。
(終)