映画ってのはどう観るのが正解か。
ひとまずベターな答えは「正解なんてない」ということになるのだろう。
じゃあ、正解がなければ間違いもないのか、あったとしてそれは誰が決めるのか。
そして、そんな不確かな状態で人々はなぜ夢中になれるのか。
今回はそんな話だ。
けれどもスマホのように人々が便利なものに依存し続けるように、俺にとって便利なものがお金だというだけの話さ。
同い年だが、俺の通っている所とは別の学校で、そこはこのビデオ屋から近いとはいえない。
だが、それでもここで働くのは別に給料がいいとかそんなことではなく、この店のピンキリなラインナップに見惚れたかららしい。
棚の整理をしながら、俺たちは何気ない話をしていた。
「なあマスダ。いま話題の『アレ』、今週からだけど観に行った?」
確かパンチだかキックだかして集めたお金で作られた核兵器が生物化し、その生物とヒロインとの戦禍の中での日々を描いた物語を、失恋ものや短編アニメで有名な監督が手がけた意欲作らしい。
「うーん、なんか面倒くさそうなんだよなあ」
「あー……まあな」
放映前から注目された作品なのだが、オリジナルでは主要人物が男ばかりのはずだったのに全員女性になっていて、原作ファンから非難轟々の状態だった。
まあ、元から俺にとってはそこまで興味のないジャンルだったので、どちらにしろ観に行かないけれども。
「観に行けばいい」
店長は割り込むようにそう言った。
「そういうもんですかね?」
店長の言葉が意図するところは分からなかったが、オサカまで健全だというのは違和感があった。
俺が「面倒くさい」といったのは、そういう意味合いもある。
「まあ、今だからこそ見えてくることもある。話題だから、みんな騒いでいるからとケチをつけるよりは有意義だろう」
別にケチをつけた覚えはないのだが、或いは別の店員がそんなことを話していたのだろうか。
「まあ、なんだかんだ気になってたし、バイト帰りに観に行こうぜ」
とはいえ、映画に関わるとオサカは羽振りがよく、色々と奢ってくれることを期待して俺は軽く頷いた。
≪ 前 映画の内容は、たぶん面白かった。 俺はそこまで映画を観るわけではないので相対的にどうかは分からないが、映像は綺麗だし、アクションシーンも盛り上がっていた。 ストー...
≪ 前 「うひゃあ、なんだかスゴイことになってるなあ」 会計を済ませて店を出ようとすると、すれ違いさまに見知った人間とすれ違った。 俺と同じ学校に通っているカジマとタイナ...
≪ 前 店長は、まるで俺たちがくるのを待っていたかのように、店内に構えていた。 「店長、『アレ』を観に行きました。映画自体は面白かったです。もちろん完璧ってわけではないで...