このゲームで〔松本城〕というのは、現実の長野県松本市に建っている松本城のことではない。それをモチーフにした架空の美少女キャラクターのことを指す。
今回問題になっているこのキャラがしゃべっている言語は、実在するアイヌ語をモチーフにして作りあげた変テコな口癖をちょっぴり混ぜこんだだけの日本語である。そういう日本語のことを指して〔アイヌ語〕とよぶのは、このゲームの公式設定でそう決っているというわけではない。
それにもかかわらず、担当声優は「アイヌ語でお話しするかわいい子です♪」とツイートしてしまった。
私はこれが失言だったと思う。
アイヌ語ではないものを"アイヌ語"だと宣伝してしまったのである。現実世界とゲームの世界、どちらに照らし合わせてもこのツイートは誤りだ。
さらに一層悪いことには、このツイートに出てくるタイプの偏見が現代社会におけるアイヌ差別にも直結してしまっている。
例えば「アイヌ民族は存在しない」という差別的な主張を唱える者たちがいるけれども、彼らがよく根拠として出してくるのは「アイヌ人も日本人と同じ言葉をしゃべるし、文化的にもまったく同じ生活をしている」ということなのだ。
声優のツイートは「アイヌ語は北海道の一地方の方言であり、基本的には日本語とほとんど同じものだ」という誤解を与える。それは差別に加担することになりうるし、その点はもっと慎重になるべきだった。
なので、製作者側が対策としてできることがあるとすれば、あれをアイヌ語だとする主張を撤回することだ。もしくは「アイヌ語をモチーフにした口癖です」ぐらいのかんじで、適当な主張に改めればよい。
いやまあ、今から公式設定を追加して、「このゲームの世界ではこれこそが正しいアイヌ語なんです。現実のアイヌ語とは違いますけどご理解ください」という強弁をすることもできる。フィクションだからその方法で押し通すことも可能だ。とはいえ、わざわざそれをやる必要は感じられない。