2016-11-27

掛け算の順序には意味がある

私は,某国立大理学部数学科学生です.先日,掛け算の順序問題についてどう思うかと友人に尋ねられました.その際に,友人と議論したことを踏まえて,私の意見をまとめておこうと思います.

1. 掛け算の順序には意味がある.

 掛け算の順序には意味があります.インターネットには「掛け算の順序には意味なんてないのに,うちの子担任意味があると教えている! 文章題の採点も,"正しい順序"の式を書いていないと間違いにされてしまう!」と激怒する親御さんが度々現れますが,文章題の採点基準については後述するとして,なんにせよ,掛け算の順序には意味があります.

 小学校では,「3×4」を「3+3+3+3」で《定義》しているはずです(もちろん,「3×4」を「4+4+4」で《定義》してもよいのですが,そのように教える先生はいないでしょう.この文章では,以下「3×4」を「3+3+3+3」で《定義》しているものとして話を進めます.)つまり,「3×4」は「3+3+3+3」という《意味》であり,「4×3」は「4+4+4」という《意味》です。掛け算に意味がない,つまり「3×4」と「4×3」は同じ《意味》だと言う人は,「3+3+3+3」と「4+4+4」が同じ《意味であると言っているわけですが,そんな馬鹿げたことがありうるでしょうか.

 「でも,実際に3×4=4×3になるじゃないか!」と言う人がいるかもしれません.確かにそうなります.しかし,「3×4=4×3」とは,言い換えれば,「3+3+3+3=4+4+4が成立する」という定理なのであって,全く非自明なことです(敢えて"非自明"という言い方をしましたが,乗法交換法則を,小学生にも分かるように説明できる大人は,そう多くないのではないかと思います).

2. 文章題を「正しく」理解するということ.

 小学校における文章題の採点で最優先すべきは,「正しく」理解していない生徒にマルを付けたり,「正しく」理解している生徒にバツを付けたりすることがないようにすることです.

 さて,文章題を「正しく」理解するとはどういうことでしょうか.例を出して考えてみましょう.

問題:1皿につき5つの飴が入っており,皿は全部で3皿あります.さて,飴は全部でいくつあるでしょう.

解答例A:5×3=15 答え15個

解答例B:3×5=15 答え15個

 ここでは,実際の教育現場先生がこれらの解答をどう扱うべきかという話はしません.これらの解答を書いた生徒がこの問題をどのように捉えていれば,この問題を「正しく」理解している,あるいは「正しく」理解できていないことになるのか,という話をします.

 解答例Bについてのみ議論すれば十分かと思われますので,解答例Aについては各自で考えてください.

 解答例Bを書いた児童が, 例えば以下のように捉えているならば,この問題を「正しく」理解しているとは言えません.

生徒X:飴が1皿につき5個入っていて,皿は全部で3皿ある.従って,飴の総数は5+5+5=3×5=15個(※掛け算の《定義》が分かっていない)

生徒Y:数字の3と5が出てきたから,3×5=15個(※最も危惧すべきパターンです)

 逆に, 解答例Bを書いた児童が, 例えば以下のように捉えているならば,この問題を「正しく」理解していると言えます.

生徒Z:飴が1皿につき5個入っていて,皿は全部で3皿ある.従って,飴の総数は5+5+5=5×3,ところで掛け算の交換法則から,5×3=3×5=15個

生徒W:皿は3皿ある.もしも1皿につき1つの飴が入っていたとしたら飴の総数は3である.ところが,実際は,飴は5個入っているから,飴の総数は3+3+3+3+3=3×5=15個.

 要するに,「3×5」という立式をする際に,「3+3+3+3+3という計算をするのが妥当な状況である理解している」あるいは,「5+5+5という計算をするのが妥当な状況である理解しており,かつ,掛け算の交換法則理解している」状況のとき,「3×5」と立式した生徒は,この文章題を「正しく」理解していると言えます.

3. 実際の教育現場での採点基準について.

 2.での議論を踏まえれば自明に分かる通り,立式だけでは必ずしもその立式をした児童文章題を「正しく」理解しているかどうか判断することはできません.従って,別の方法判断せざるを得ないわけです.私は,式を書くスペースの他に,図や文章説明する余白を設けて,児童記述させればいいのではないか,と思います.授業中に,そういう説明の仕方についての指導も行えばなおよいのではないでしょうか(式を書くだけでなく,その説明もするという訓練はとても大切なことですし,理解度が深まることも期待できます).もちろん,式は正解になりうるが説明欄が意味不明という状況もあるでしょう.そういう児童に対しては,個別に「これはどういう意味なの?」と訊き,十分な答えが得られたら正解にしてあげるべきだと思います.「そんな時間や労力はない!」などと言われそうですが,理解していない生徒がマルをもらったり,理解している生徒がバツをくらったりする現状は,やはり異常ではないでしょうか.

追記1.

ですから先生は,掛け算の《定義》を児童にきちんと伝えておくことが必要だと思います.

追記2.

インターネットには,Zは可換環から云々との意見がありますが,小学生にとって自然数は,極めて素朴な対象として存在しているのであって(人類にもかつてはそうだったのでしょう),従って小学校算数は,小学生にとっても直観的に明らかな事柄から,内容を自然拡張するようにカリキュラムを組むべきだと思われます.掛け算を習ったばかりの小学生にとっては,「×」は可換環Zに定義された乗法ではなく,前の数を後ろの数の回数だけ足すという記号です.

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