子どもの頃、雪は好きだった。
東京に生まれた頃から住んでいる自分にとって、降雪は特別なものに思われた。
真っ白な雪を、汚していくことは、未開の地に立ち入ることに似ている。
まるで物語の主人公のように勇み足で、白雪を足跡でいっぱいにした。
清い純白はたちまち陰ったが、私は満足だった。
だから、溶けていくときは物悲しい気分になったことを覚えている。
寒いし、ダイヤは乱れるし、雪って案外汚い溶け方をすることを知ってしまったから。
足跡がつくほどは積もっていないけれど、屋根はうっすらと雪化粧している。
ひんやりとした空気に、時折刺すような北風が吹く。
私も大切な人ができたら、雪が降り始めたよと真っ先に伝えたい。
普通にぬるかったけれど、オレンジ色のキャップにほっこりとした。
こんな日は猫のようにコタツで丸くなりたい。私は戌年だけれど犬のように庭を駆け回るような元気さは残念ながら持ち合わせていないのである。猫が干支レースに勝っていれば良かったのに、とくだらないことを考える。
電車はやっぱり遅れていた。
こんな日にはほかほかのラーメンが食べたい。勿論味噌味、味玉つきで。にんにくが効いていたら最高だ。
恋人と暖め合いたい、けれど残念なことに恋人いない歴=年齢の喪女なのである。
付き合いたい、と強く思った経験がある。
同性愛者という存在がいることも、保健体育で習わなかったと思う。
あれは本当に世界が色づくような想いだった。
その子を私のものにしたい、と強く思ったし、彼女も同じ気持ちであってほしいと願った。
抱きしめられた時は嬉しかったし、鼓動が伝わっているのではないかと懸念し、全身が火照ってしまった。
あの頃のような気持ちにまたなれる日がくるだろうか。
辛かったけど、痛かったけど、雪と同じように溶けていった初恋だけれども。