5年ほど前、ある日曜日の夕方、あまり家から出ない父が、「お菓子屋さんに行こう」と僕や僕の妻、弟を誘った。
なんでも、父の知り合いが営んでいる菓子店をリニューアルしたらしい。
新しい作りの店はにはリニューアル後らしく旗が立っていたりしていたが、暗くなりかけていた時間帯のせいか、客はいなかった。
父は中年の店主夫婦に挨拶したあと、僕の妻にだけ「どれがいい?」と聞いた。その後、父の思うままに菓子を選び、気がつくとかなりの数になっていた。
父がこんなに甘いものが好きだったかなとは思ったが、一緒に菓子を買う機会はそれまでほぼ無かったので、気に掛けることもなかった。
最近になって妻が「お義父さん、ああみえて、いろいろ気遣いしてるよね」と言い出した。
そして、5年前のこの話も、例の一つとして挙げた。
店に行った時間も、もうこのあとたくさんお客が来ないと考えてあの時間だったはず。
みんなを連れて行ったのも、たくさん買って余らないだろうかって思わせないためでしょ。」
「おつきあいで買いに行ったのはわかってたけど、そこまで気にしてたのかな?」
何度も読み返した本に知らない伏線があったような気持ちになった。