2016-10-17

ベンチに止まったトンボを撮っていた

とある大きな公園のベンチが並ぶ一角で、友人とカメラを構えていた。

花や蝶たち舞い遊ぶ様子を追いかけながら写真を撮っていると、目の前の誰も座っていないベンチにトンボが止まった。

友人と二人、すぐに中腰になってカメラを構える。

その日は二人ともテレ側300mm以上の高倍率ズームを付けていたので、ファインダーを覗くと狭い世界しか見えない。

1.5Mの最短撮影距離ギリギリまで近づきながらシャッターを切る。

「なかなかいい顔してるね」

もっとこっち向け!顔を見せろ!」

「だめだね。全然言うことを聞かない」

「そっちじゃない!こっちだよ!」

「すっかりモデル気取りだね」

「あ!首を傾げた!」

かわいいね!」

トンボが飛び去るまでひとしきりシャッター音を響かせてからふとファインダーから目を離して顔をあげると、トンボのいた位置を挟んですぐ隣のベンチからものすごい形相で老夫婦がこちらを睨みつけていた。

僕は白々しく「トンボ、かわいかったね。」と口にするが、僕らの潔白を証明してくれる存在はすでに秋風にのって天高くへと舞い去ったあとだった。

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