日記帳を開いて書き始めると、どうてもいい話ばかり思い出して、それだけでスペースが埋まってしまう。
そもそも日記帳を開くこと自体が億劫なのに、書いたあとで芳しい成果が得られなかったと軽く後悔するなら増々日記から遠ざかるのも無理はない。
本当は、毎日の終わりに日記をつけて、その日に思ったあんなことやこんなことを忘れずにいたい、なんとかしてとどめたいと思っているのに。
日記が続かない。
昼間、なんとなく思い浮かぶ考えとか、疑問とか。その瞬間にはとてもきらきらしてすばらしいものに思える。
でも、そういう一つ一つは時間がたつと遠い記憶の底に沈んで二度と手が届かないところにいってしまう。
そうなる前に、どうにかして自分の目の届くところに保存したい。でも、できない。
これまでずっと、手にすることができたはずのものがすべて指からすり落ち続けてきたように感じている。
でも実際、それらを掬いとって目の前に並べることができたとして、それらが本当に輝きを保ったままでいるのだろうか。
子供のころ、湖の浅瀬で美しくきらめいていたのが砂金ではなく、雲母だったとわかったときのあの感じを味わうことになってしまうんじゃないだろうか。
そんな疑念もないわけではない。