彼は、ビー玉のように丸く大きな瞳と、優しげに垂れた眉、主張の少ない鼻と口元が綺麗に収まったその顔をくしゃくしゃにして笑う人だった。
いつも自分の名前より先に名乗る横文字があった。膝より高く足を上げ、腰より高くジャンプして踊る、アイドル。その特徴的な声は、話す時も歌う時も彼にアクセントを与えた。
どうして彼に惹かれたのか、いつ好きになったのか分からない。正確には『覚えていない』。今となってはそれはとても悔しいことなのだけれど、仕方ないと思うようにしている。
私は4歳だったから。
物心ついた時にはもう彼が私の心の中心にいた。大きくなったらお父さんと結婚する!という父親泣かせの常套句と等しいようなテンションで、私は大きくなったら彼と結婚する!と言って憚らなかった。
軽快なピアノの音から始まる曲と共に、4歳の私は彼と彼の仲間たちの虜になった。
私が5歳になる頃、25歳の彼は大晦日に行われる国民的番組を仕切る役目を任されていた。
私が10歳になる頃、30歳の彼はきっとこの先も歌い継がれるであろう国民的大ヒット曲を発売した。
私が15歳になる頃、35歳の彼はオリンピックのメインキャスターとして現地に赴きその熱狂を伝えていた。
いつの間にか初恋の人に対する感情はほぼ親に対するようなものへと変化していった。仕事ぶりへの尊敬と、健康の心配、どちらも尽きない。結婚したい!と言っていた人に、今は介護させてくれ…と言うようになった。
今の私に、当時の彼が成し遂げたことはきっと何もできないだろう。そんな無力感に襲われるが、彼は24歳であそこまで出来ていたんだから、私にだって何かできるはず、何かしなければ、という気持ちにもさせてくれる。
彼はもうすぐ“アイドル”の壇上から降りてしまうという。一報を聞いてから1ヶ月半が経つが、未だに理解が追い付かない。3か月先のことは正直まだ考えられない。それでも心の準備はしておかなければ、という思考回路になってしまうのは、何事も事前の準備を怠らない彼の影響なのだろう。
大事な大事な番組とお別れすることになった際の彼の言葉を拝借して彼というアイドルとのお別れの言葉にしたいと思っている。
『あなたを好きになって20年間で、「もう成人だから卒業していいんだよ」と言ってくれてるんじゃないかなと勝手に解釈をして、今後も「私は中居正広ってアイドルがずっと好きだったんだよ」と、胸を張って恥じないように、生きていきます。』