2016-09-23

友人の犬が頭悪い

友人は貧乏だ。なのに犬を飼っているだなんて贅沢だ。

家は隙間風が入ってくるくらいにスカスカで、家の前に立っただけで友人がいるかどうかはすぐに分かる。

なぜって、家の中の会話が外に丸聞こえだからだ。

友人の家にはファミコンがない。いつも将棋を勧められるが僕はそんな難しいゲームなんて大嫌いだ。

だけど友人の家には犬がいる。だからはいつも遊びに行くのだ。

友人の犬は頭が悪いから僕が遊びに行くと興奮が冷めることがない。

狭い部屋の中をぐるぐると物にぶつかりながら走り回るものから、畳はボロボロだ。

急に立ち止まったかと思うと所構わずトイレをしてしまう。

この間なんて、急に部屋を出ていったかと思ったら僕の靴にうんこがしてあった。

友人は顔を真赤にして犬に怒っていたが、怒りたいのは僕の方だし、でもそんなところもこの馬鹿犬の憎めないところだ。

僕の家にはゲームが沢山あるけど犬もいないしママもいない。ゲームをずっとしていてもジュースをこぼしてしまっても怒る人すらいないんだ。

いつも夜遅くに疲れて帰ってくるママに犬が飼いたいだなんて口がさけたって言えるわけがないよね。

そんなことを考えながらぐるぐると走り回る犬を見ていたら、突然僕めがけて駆け寄ってきて足にしがみつくと腰を振り始めた。

友人はまた顔を真赤にして怒り出す。

僕は犬の行動の意味がわかったけど、あえて知らないふりをして「やめよろー」とかいつも通りに対応する。

ハウス!」

なかなか離れようとしない友人は、外に聞こえようがお構いなしに大声で叱りつけた。

「バーモンド!」つられて僕も叫ぶと、外からいたことのない声が響いた。「カレー!」

居間のドアが開くと友人の父親が顔を出し握られていたマイクに向かって叫ぶ。

りんごはちみつぅ?!」

僕の足にしがみついているのは、実はよく見れば犬ではなく秀樹だ。

HIDEKI感激ぃぃ!!」

秀樹の声が響くと同時に一斉に流れ込むバックダンサーたち。

YMCAのイントロを聞いた瞬間に血が滾り始めるのがわかった。

ママもよれよれのスーツ姿のまま軽快にボックスを踏み続けている。

観客も一体となり一糸乱れぬタイミングで両手でYMCAを形作る。

テレビの前のお茶の間も今頃はどこもダンスステージだろう。

舞い散る紙吹雪オケ指揮者が指揮棒を振り乱せば感動のフィナーレだ。

あの頃は何もかもが輝いて見えた。

感動のあまり呆然としている僕の手を取ると秀樹は僕をステージに引き上げた。

僕はステージの中心に立ち高らかに両腕を上げると一気に振り下ろす。

それを合図に、その場にある楽器全てが最後の一音を奏でた。

天井割れんばかりの拍手が起こる。僕は人生最高の充実感に満たされていた。

バックステージを抜け玄関の冷たい鉄トビラを開けると、ぼくはランドセル自分の部屋に放り投げた。

リビングの明かりをつけるとテーブルには置き手紙が見える。

ママ今日残業で遅くなるから晩御飯はお鍋を温めて食べてね。」

コンロの上を見ると、水を張ったお鍋の中にボンカレーが沈んでいた。

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