小さい頃から、うちにはお金がないと言われて育った。なので、物心ついた時からうちは貧乏なのだと思っていた。
実際小学生の頃、鉛筆を最後まで使うという節約のために鉛筆ホルダーを使わせられ、それを見た小学校の先生に悪いことだと怒られ、それを聞いた母が学校に「うちは貧乏だから節約してるんだ!何が悪い!」と怒鳴り込みに行き、先生が「かっこつけでつかってるのだと思いました、すみません」と謝る、などという一幕もあった。
私はマンガが好きだった。なので中学生の頃マンガの専門学校に行きたいと思いマンガ雑誌の広告にあった専門学校の宣伝を読んでみたが、入学金100万(確か)の時点で諦めた。
じゃあ普通に進学しようとし、どこの高校にしようかと両親と相談した。両親は「お前を大学に行かせることはできない、その代わり高校は私学でもいいから好きなところに行け、その分の金は貯めてある」と言ってくれた。それなら、ソコソコの成績なのでソコソコの公立進学校に行きたい、と主張した。が、大反対された。「大学に行かないんだから進学校に行く必要はない!」と。じゃあ好きなところに行けってどういうことやねんと思ったが、その進学校に行きたいのは大学に行くためではなく、単に学力的に手頃で駅から近く通学路に本屋さんがいくつもあるからだと主張したら、しぶしぶ許してもらえた。
しかし実際に入学してみると、1年生の段階で理系に進学したいか文系に進学したいかまだ決めていないかを訊かれた。その答えで2年次から進学先別にクラス分けがされるような高校だった。
うちの両親は私がそういう校風に感化されて大学に行きたいと言い出さないか警戒していた。だから常々言われた。「お前を大学に行かせることはできない、もし大学に行きたいのだったら自分の力で行け」と。私も最初は大学に行く気は無かった。
だが周りのクラスメートたちは徐々に大学に行くため予備校に通い始める。そんな中で私は思った。私だけが大学に行けないのは許せない、と。みんなは普通に大学に行けるのに、自分が大学に行けないのが悔しくてたまらなかった。だから、「自分の力で」大学に行くための算段を始めた。
まず学費の問題から私立は不可である。しかし、国立の学費も半年で30万と高すぎる。一年通ったら60万だ。60万といったら我が家の年収の約1/6であり、親には到底頼めない。奨学金も調べてみたが、そもそもが借金であること、利子なしの一種は月額5万円であることを考えると、自然と選択肢は狭まってきた。自宅から通える国立大学はあったが、通学費が半年で15万くらいかかる場所にある上学力的にも厳しい。そうして最終的には、すごく家賃の低い部屋に住み、奨学金も借り、バイトで月10万ほど稼ぐこと前提で、学費が国立大の半額になる国立夜間部を目指すことにした。
夜間と言っても国立である。自宅から通える国立大学ほどではないが、今の学力では到底届かない。そのため、一年浪人することになった。宅浪するかどうか迷ったが、自分の頭と意志の強さを信じられなかったので、予備校の月謝制講座を2コマだけ取り、バイトで月5万ほど稼いでそれを右から左へ月謝に充て、予備校と自宅でみっちり勉強した。
それでも最後の関門があった。入学金である。夜間であれども20万ちょっとは入学金として必要だったが、バイトのシフトもこれ以上入れなかった上、バイトを増やすのは勉強時間的に不安でもあった。
なので、そこは両親に頼み込んだ。1年かけて頼んだ。
最初両親は、私が本気で自力で大学に行きたいと思っているとは思わなかったらしい。とにかく反対だけされた。金は出せん、諦めろ、それだけだった。
それでも私がバイトをしながら予備校に通い夜遅くまで勉強していると、「勉強なんかするな!無駄なんだから!」と部屋に怒鳴り込んできた。
けれどもめげずに勉強し続けた。
時には不安になり、大泣きもした。これほど勉強しているのに、両親がお金を出してくれなかったら何もかも無駄になる。なぜうちにはお金がないのだろう、と。
そんな気持ちが最後には届いたのか、両親は大学に行くことを認めてくれた。入学金と部屋を借りるためのお金に関しては出してくれることになった。12月のことだった。
残りの予備校代も貯まったことだし、そこで私はバイトを辞めラストスパートに入った。
そうして無事に合格し、家賃的にも距離的にも大学に通えるレベルの部屋も無事決まり、私は大学に行けるようになった。大学に行ってみたら夜間部であっても周りがお金持ちばかりでカルチャーショックを受けたが、それはまた別の話。
そうして今思うと、両親には無理をさせたな、と思う。世帯収入300万台の家であり、5人家族で、田舎ながら一軒家のローンも背負っている。その両親にとって、予定していない出費入学金と引越し代合わせて30万強はいかほど大変だっただろう?
高校時代にしていたバイト代をお小遣いに充てず、ちゃんと学費として残しておくべきだったと後悔しきりである。
でも、それでも私は幸運だった。本当にギリギリのところで両親に助けてもらえたからだ。親との関係が本当に悪く、助けてもらえない人もいるだろう。親に本当にお金がない人もいるだろう。だから、自分一人でも頑張れば進学できる、とは主張できない。