2016-07-31

http://anond.hatelabo.jp/20160731000611

物語製造業人間からコメント

まずはじめに、(対価のない)残業とか長時間労働は、悪であるっていうのは異論がない。

じゃなんでこんなドラマ作ってるんだよ、糞野郎死ね、と言われれば反論のしようがないんだけれど視点の補足として2点ほど足したい。

ひとつめは、僕等としては残業を戦いたいわけじゃなくて苦闘みたいなものを描きたいんだよ。物語上の要請として、成功や勝利の全段階として、苦戦や熱戦の描写必要だ。これは物語設計上の問題なので、もう、どうにもならん。エンタメとして人間が楽しめるパターンは限られてる。難問の提示→工夫や挑戦→解決(勝利)という構造は、壊せない(壊してもいいけれど、エンタメとしては大衆に訴求できなくなるだけだ)。

もちろん、「苦闘」という抽象的な設計要請を「長時間労働ブラック労働描写」にする必要はない。感情導線を作中のどういうエピソードとして描くかは、作者(この場合脚本家か)の腕の見せ所だ。他の苦闘描写にすればいいじゃねえか、と言われれば、Yesだ。それが視聴者や読者に不快しか与えないのは、作者側の技量不足、というほかない。という原則論を先ずは掲げておき、次には「じゃあ、現代日本の作者の平均的技量はどうか?」という視点で見てみると、例示されたテレビドラマ脚本家が著しく能力に劣るとは思えない。「家を売るための工夫」みたいな部分で、じゃあ他にどんな描写が出来たか、新素材開発の技術者敵苦悩? 銀行の根回しの政治闘争? どれも尺的な問題や、他のドラマ部分との整合性難易度が高そうだ。もちろんそういった変わったエピソード迫真性を持って描ける有能な作者もいるがそれは平均レベルではない。

(すべての作者や脚本家は有能であれ! という意見は一理あるが、それが現実社会実践できるかは、増田全員が自社や自分身の回りを見回せば納得してくれると思う。創作者の世界だって、有能な人間割合は変わらないのだ)

二点目の問題として、「このシーンは苦戦、苦闘のシーンなのだ」というのを視聴者に伝えるエピソードとして、ブラック労働というのは、視聴者からみて「理解可能なのだ作家脚本側)は、この「理解可能」という制限範囲内でしかものを作れない。その範囲を超えてしまうのは、芸術としてはありかもしれないけれど、大衆エンタメとしてはNGだ。増田がそのブラック的な業務(っていうか、子守って業務なのかどうかわからないが)をみて「これはひどい」と思ったのなら、それは「ヒドいシーンを描こう」という目論見が成功した結果だ。

たとえば、プログラマなどはその業務において、本当にクリエイティブなのは頭のなかで実装アイデアを考えている瞬間だ。そこに快楽ブレイクスルーの高揚があるとは思う。しかし、その瞬間は、他人から見れば散歩中であったりモニターの前で空中を見つめているだけだったりする。それを「熱戦」であったり「苦闘」だと、圧倒的多数視聴者理解できない。同じオフィスで働いているOLだって理解できないくらいだ。理解できるようにドラマ的な補助線を引いてやるなり、読者視聴者に分かる程度に戯画化してやるしかない。「ムカつく糞ガキの子守」というのは、この戯画化の結果だ。

まり、件の展開は作家脚本家の工夫の結果だといえるだろう。

第三に、ドラマなるものエンタメ創作は「特別もの」を描くものだ。これは、もうすこし常識として言語化されていいものだと思う。なんでコナンではあんなに殺人バンバン起きて密室が出てくるのか? それはそれが「特別もの」で「常とは異なるもの」だからだ。「だからこそあえてそれを描いて世に表す価値がある」という考えのもと、エンタメとして成立している。青春時代初恋や、大正時代ハイカラ女性の自立や、銀行員の造反もそうだ。日常系物語でさえ「日常の中のちょっとした特別」という意味特別を描く。描くという行為のものが、その描いたシーンを描かずに省略したシーンに比較して特別にするという創作的な処理なのだ

その「描かれた特別もの」を「一般社会常識に反している」という視点糾弾してしまうと、エンタメ作品の多くは枯れ果ててしまう。件のドラマは、逆に言えば「一般社会ではあっという間に糾弾されてしまうような『特別な』ブラック労働なので、あえてそれを描いたのだ」といえるだろう。

もちろん(対価のない)残業とか長時間労働は悪である。それを礼賛するような「描き」になってしまったのは、前述したように作家脚本家側の技量不足であるしかしながら、以上3点の視点補足が、この種の問題に対する考察の糧となってほしい。

記事への反応 -
  • ドラマは結構好きで毎クール色々見ている。 今期も何本か見ていて、職業ものドラマが増えてるなぁと思う。 ネット上では日本の残業時間や労働時間の長さがよく問題になっているけ...

    • 物語製造業の人間からのコメント。 まずはじめに、(対価のない)残業とか長時間労働は、悪であるっていうのは異論がない。 じゃなんでこんなドラマ作ってるんだよ、糞野郎死ね、と...

      • 僕等としては残業を戦いたいわけじゃなくて苦闘みたいなものを描きたいんだよ。物語上の要請として、成功や勝利の全段階として、苦戦や熱戦の描写が必要だ。 だったら、古い体質...

        • 例えば政治腐敗が起こっている王国を打ち倒して新体制を確立するって話ならアニメなんかでよくありそうだね。 でも、既存の組織をぶっ壊して革命してやるぜ!というような反体制...

        • そういうドラマがなんで無いのかって言うとそれを脚本化出来る脚本家は有能で少ないからだよ。 じゃあそういう脚本家に頼めばいいじゃないか? というのならそれ相応の利益を挙げ...

          • 広告を無視したらドラマに限らずあらゆるテレビ番組がブラック労働の温床じゃないですか あとインターネットも

        • できねんだっての。w  局の上の方なんかもう派閥政治だぜ? 民進がこのザマなのに今時、組合賛歌みたいなドラマが受けますかっての。ww 年齢的にイケイケドンドンでバブル絶頂...

    • 時間管理もできない無能な僕らの等身大の人生を描いてるんだからそこそこリアルで共感呼べるでしょう。 どうせ子どもに定時という概念はないし、先生が居残りだ補修だって言えばそ...

      • 『やや日刊カルト新聞』 POSSE“名誉毀損”の刑事告訴が嫌疑不十分で不起訴に http://dailycult.blogspot.jp/2016/07/posse.html NPO法人POSSE事務局長らが大学で偽装勧誘 http://dailycult.blogspot.jp/2015/09/npopos...

    • でも、みんな定時で帰ってほどほどに働くドラマだったら 「現実はこんなに甘くないだろ!」って言われない?

    • ドラマには独断専行そして成功の展開も多いと思うけどそれが賛歌だとも思わないでしょ。 考えすぎ、というか疲れてるんだよ。

    • ドラマどころかアニメですら社畜賛歌になってるんだよな。 NEW GAME!なんか新入社員なのに、いきなり21時とか22時まで残業させてるし。 かつてブラック企業の代名詞と言われた、うちの...

      • 「12時~21時の8時間勤務なんだよ」というコメントがついててなるほどと思っていたら 3話の遅刻届に出勤時間:10時20分と書いてあって泣いた。10時じゃん……。

    • 気付いてないワケねーじゃん。w  ADだって上っていけば好き放題できるから我慢してるだけで、奴隷作っとくのが制作には一番手っ取り早いんだよ。 対価のない残業とか労働って書...

    • 主演のジャニーズが20歳以上も年上の吉田羊と付き合ってるコメントが無いのは意外だ。 ちなみに本人はグループのメンバーとの腐売りに必死らしい。

    • 『やや日刊カルト新聞』 POSSE“名誉毀損”の刑事告訴が嫌疑不十分で不起訴に http://dailycult.blogspot.jp/2016/07/posse.html NPO法人POSSE事務局長らが大学で偽装勧誘 http://dailycult.blogspot.jp/2015/09/npo...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん