私は半信半疑ながら、食卓に置かれた一房のバナナを眺めていた。
この確かに目の前に存在するバナナが消えるなどという話はにわかには信じがたかったが、日本各地でそのような事例があるという。NHKでも報道されている通りだ。
その原因やメカニズムについてはさまざまに議論されているようだが、私にはいずれも説得力に欠けるように思われた。
兎にも角にも、自分の目で確かめてみるほかないだろう。そう腹に決め、私はこの週末を利用してバナナを観察することにしたのだ。
私はじっと待っていた。
何時間たっただろうか、私はどうやらまどろみかけていたらしい。
食卓に目をやった私は、あっと声を上げた。
バナナが消えていた。
いや、今まさに消えつつあった。
4本のうち、1本はすでに跡形も無く虚空に消えている。
その隣の1本は、半分ほどが闇に飲まれて、いや、西日の中へと溶け出していた。
私はその断面に目を凝らしてみた。だが何が起きているのか見当もつかない。
そうだ、記録しなければ。私は慌ててカメラを手に取ろうと立ち上がった。
が、よろめいて手をついた。何かがおかしい。
私の体は消えつつあった。
私の腹はすでに存在しなかった。
右足もほとんど消えかかり、左足は宙に浮かんでいた。