今までずっとワインの美味しさが理解できなかった。酒ならビールのほうが美味しいし、世間で過剰にありがたがられている(これは今でもそう思うけど)のも背を向ける理由となっていた。
もともと食への関心は高い。平均以上の収入もあるのでおいしいものを食べてきた。
お前は今までに食べたミシュランの星の数を覚えているのか?と聞かれたら、夜空の星の数と同じ位かな、と答える程度にはレストラン巡りをしてきた。
ワインは美味しくないと思っていたし、料理と違ってレストランでの付加価値はなく小売でも買えるのに、何故に3倍の値段を出してレストランで飲むのかと思っていた。
このためワインを飲む機会は、飲み会の場で誰かが頼んだワイン、常に安いヤツだ、を飲む位であり、そのたびにワインてまずいなと思っていた。
転機は営業職の配転だった。40目前にして初めて営業に配属された。営業は絶対に嫌だと思っていた。他に能がない奴がやる仕事だと思っていた。実際に営業やってみたらその面白さに気づいた。それは別の機会に語るとして、営業なので経費が使えるようになり、仕事で客と食事に行く機会が格段に増えた。営業で行く店は社内の飲み会に行く店よりも数段格上である。
そこで客に勧める手前自腹では絶対注文しない高いワインを飲む機会ができた。グラスワインで言うと2000円、ボトルで言うと1万円より上のワイン。この価格を飲んでみて気づいた。どれもこれうまい。うまいー。うますぎるー。
今まで口に入っていたのは大体ボトルで店で二ー四千円くらいのものだった。飲んだ後に嫌な味が口に広がるのだが、前述のような価格帯の場合それが全くない。
ワインは価格だ、と言うとおそらく語弊があって、目利きの力があれば必ずしも高い値段を出す必要はないのかもしれないが、俺のような特に興味のなかった一般人が目覚めるのに必要なのは価格だった。それとデカンタージュとか、抜栓から時間を置いたり、そのクラスの店が行う取り扱いも重要なのだろう。ソムリエと言うのも単なるハッタリの職業だと思っていたが見直した。なぜなら自分でデパートで5千円のワインを買ってきて飲んでもたいして美味しくないからだ。彼らの目利きには価値があったのだ。