2016-01-13

放牧場

たぶん。

それは広い草原だった。場所は斜面だったので多分放牧場。道をはずれて草原の中にいた。じゃまされない様にね、と男が言う。海でじゃまが入ったから人が来ない所を選んだのだと、思う。

水が無い場所で出てきたのは輸血用のチューブだった。部屋をめちゃくちゃにされた後に大学病院から持ち出してきたと、男が話す。血が固まらなければ死ねるのだけど、車の中が血だらけになるな、といいながら男はそれで足首から血を抜き始めた。

血液が固まらないのは助剤を加えてあるからだろうから、今考えると死ぬ段階まで血が抜けるのかどうかちょっと無理がありそうだけれど、実際にそれは血液を流し続けていた。


これは現実の事などでは無い、と私はぼんやり思っていた。逆らうでなく、逃げるでなく。有りえない事実を受け入れるのを拒否して。

そして、その道も何もない広々とした草原の中で車が近づいてきた。「すみません」と声がして男性が一人車から降りて近づいてきて、男は慌てて窓から身を乗り出してその人に返事をした。市街地への道を尋ねていたのだと思う。近づいてきた車は再び動き出して斜面を下って遠ざかって行った。

「車の中を見られたかもしれない。ナンバーも見ていたかちょっと移る」と、男はその場からまた車を走らせた。

そう。覚えている。道を尋ねたその人の顔も声も。その時身勝手な男が何をしていたのかも。自動撮影ビデオが回り続けているようにそれは記憶され、気を緩めると自動再生し始める。焼き鏝を押し当てられた様に、それは消えない。

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