つきつけられたナイフの光る刃。脅迫と、怒鳴り声。振り回されるナイフ。警察を呼んでと叫んでいる自分の声。それは私が殺される前の日のことだった。
刺されていればよかった。死んでいればよかった。そのまま女は刑務所の中。私はその後の更に酷い多くのものを見ないですんだ。死んでいればよかった。
ひどい腹痛。病院の診察室。知り合いらしい医師と話していた男の声。診察してくれた医師が飲んでいたお酒のにおい。真夜中の病院。
切れ切れに浮かんでくる沢山の恐怖の中で、刺してやろうかと脅す女の声がまだ聞こえる。
私は自分に起きた事を拒否した。自分が存在している事を拒否した。記憶がほとんどない。
ツイートシェア