覚えているかな。
何年か前、二人で歩きながら、君は言ったよね。
「手を繋いでもいい?」
何言ってるんだと笑って振りほどいた手を、
数年越しで握られるまま握り返したあの夜の僕の気持ちを、君は一生知ることはないでしょう。
君はこうなってしまったことを、自分がしたいからしたのだと言ったけれど、それはずるい言葉です。
本当に僕の気持ちを考えていてくれたなら、そんなことは言えなかったはず。
君はそういう人だよね。
君は僕のことがずっと好きだったんだよね。
知っていたよ。
知っていてずっと知らないふりをしていたよ。
もうすぐその人と結婚するんだよね、きっと。
打算的で押しに弱い君の性格では、現状を変えることなんてできないよね。
そうしようと努力するつもりもないんだよね。きっと。
何年も付き合った恋人を捨てて、誰にも祝福されない荊の道を歩く覚悟はないでしょう。
属したコミュニティーの皆から、後ろ指を指され続ける人生を送る勇気もないでしょう。
わかっているよ。
それは僕も同じだから。
似すぎていたんだよね、僕たちは。
長く友達でいすぎたんだ。
君が信じて。って言ったから、信じるよ。って言ったけれど、本当は全然信じてないんだよ。
それでも君を受け入れたのは、自分の弱さだって知っているから、安心して。
君に全ての責を擦り付けるつもりはありません。
もちろん誰にも言わないよ。言えないよね。
やれやれ、墓場まで持っていかなければならない話がまた一つ増えてしまったな。
いつもいつも、君の言葉はうわべだけ、つるつる滑って消えていく。
だけど僕を好きだと言ってくれた、君の気持ちだけは信じるよ。
大丈夫。
だからって今君のいいように振り回されるのは癪だけれど。
君の望むことはなんでも叶えてあげる。
少し軽すぎる気がしないでもないけれど、
それが僕らの罪と罰。
お前のこどもとしての性格が最悪の中の最善だから嗜好する。