ボーカロイド衰退論が先日賑わっていたけど、ボーカロイドブームが音楽業界のビジネス的な側面において与えた影響で恐らく最も大きいのは、ワカモノ層にとって音楽はネットで無料でフルで聴けるのが当たり前、という感覚が完全に定着してしまったことだと思う。
初期のボーカロイドブームにおいてはランキングを毎日チェックして新しい音楽を求めるワカモノ層の行動が顕著だったけど、それは90年代のオリコンを追っかけていたワカモノ層と同じ行動で、ただ決定的に違うのは、それがレンタルショップにすらおカネが落ちない、完全に無料の世界で完結してしまったということ。
結局ボーカロイドの音楽シーンも、アイドルやジャニーズの劣化コピーの様な歌い手のために作られた楽曲が主流となり、CDも彼らがライブや即売会で握手を伴って提供されるものしか売れないという、J-POPと全く同じシーンの終焉を向かえることになった。
振り返って、この無料でフルで聴けるのが当たり前の時代は、商業でやっているアーティスト達にとっては深刻な影響をもたらした。
ボーカロイド全盛期に活動のピークを迎えたサカナクションは、本来であればもっとワカモノ層に聴かれるべきアーティストだった。
ただ、彼らもまだマシな方で、ワカモノ層への関心を繋ぎ止められた最大の要因は、楽曲をYouTubeに無料でフルで聴けるようにしていたからである。
(個人的にはYouTubeで公式でフルで聴けるようにしているのであれば、ニコニコ動画にも公式に提供すべきだったと思う。)
その時代にYouTubeにショートバージョンの公開でお茶を濁してアーティストの権威を保とうと努力していたワカモノ層向けアーティストは、今一体どれほど残っているのであろうか?
この時代にブレイクしたきゃりーぱみゅぱみゅも、当然ながらフルを公開している。
以降、ONE OK ROCK、SEKAI NO OWARI、back number、ゲスの極み乙女。等のワカモノ層に人気なアーティスト達も共通してフルを公開している。
むしろ、フルで公開しなかったら、ここまで人気が出なかったのかもしれない。
ここで重要なことは、ワカモノ層にとってフルを公開するのが当たり前であって、むしろショートしか公開していないことに意味を見出せない。
なぜ自分達の楽曲を不完全なカタチで届けているのだろう?意味ないじゃん!という感覚なのだろう。
今年は定額制音楽聴き放題サービスが各社から提供され、音楽を聴くことが有料であるという文化を取り戻そうと音楽業界が必死にもがいているが、ひとつ忘れてはならないことは、音楽の最大の消費層である今のワカモノ層にとって、ネットで音楽をフルに聴く行為は完全に無料が当たり前であって、有料で聴くという文化そのものがそもそも最初から存在しないということである。
YouTubeで最新の聴きたい楽曲が無料でフルで聴けるのに、わざわざ有料でマニアックな洋楽を聴くワカモノ層がどれほどいるのだろうか?
アーティスト性への拘りや大人の事情で、ワカモノ層からの支持と楽曲でのビジネスの成立の二兎を追うアーティストは、ボーカロイドブーム時代に埋もれてしまったかつてのJ-POPアーティストと同じ道を辿るのであろう。