7月に入って、もうすぐ一週間が経とうとしている。
何の変哲もない日常は、ただぼんやりと過ぎて行って、それはそれは無駄に時間が経つ。そこに彼を見つけられないならば尚更だ。
毎日通った訳ではないけれど、7月に入ってから、彼をレジで見る事がなくなった。バンダナを巻くおばちゃんに混じり、帽子をすっぽり被る彼の姿をキョロキョロと探すが見つからない。ならばこのフロアで買い物をする理由もないと、私は用事があるフロアに向かう。
別フロアで買い物を済ませ、もう一度レジをキョロキョロと見回す。けれど見つからない。それが数日続いた。
私はすっかり意気消沈してしまい、周りへの態度も日常の生活もそれはそれはおざなりになった。彼をおかずに耽る自慰も、私の頼りない脳内では、数日見ないだけであっという間に彼の顔を再生出来なくなり、玩具に手を伸ばすのさえ億劫になって封印した。
彼が仕事をやめてしまえば一生見られなくなる事を分かっていたはずなのに、あまりにもその事が現実味を帯びて来るとその現実から目を背けたくなるのだから、全く情けない。
どうして一言でも声をかけなかったのだろう、と後悔が私を襲う。結局は行動に移す事が出来なかったのだから潔く諦めなさいよ、なんてもう一人の自分が言った、気もした。
そして今日、またしても用事があり、スーパーに向かう。クセのように彼を探す。すると見覚えのある姿が目に入った。
そこにはいつものように低姿勢で、接客をする彼がいて私の心は分かりやすく嬉しそうに跳ねた。
いつもと違うのは彼がマスクをしていて、ああ、そうか。ここ数日見なかったのはもしかして風邪を引いていたのかもしれないな、と思った。
彼のレジに並ぶのは久しぶりだし、そろそろいいかなぁなんてよく分からない事を思いながら彼のレジに並んだ。マスク越しに聞こえる声はいつもよりくぐもっていて、マスクのせいで目元しか見えない彼の目はいつもより少し辛そうに霞んでいたように見えた。それでもいつも通り丁寧な接客をしてくれる彼に心の中で その風邪、うつしてくれていいんだよ…!なんて思ったりしていた。
あんなに周りにおざなりな態度を取っていたのに彼を見てからは不思議とご機嫌になるのだから、自分で自分に引かざるを得なかった。
それでも彼がいつも通りあのスーパーでレジをしてくれている、というたったそれだけで、また毎日を過ごして行けるような気がした。