昨日、会社帰りにコンビニに寄ったら、駐車場で見知らぬおっさんに声をかけられた。
私と兄は仲が良くも悪くもなく。兄弟だけど接点が無かった。
父と折り合いが悪かった兄は、中学に入ると家に帰らず毎日遊びほうけ、中学を卒業してしばらくすると地元を離れて音信不通になった。
最後にまともに会話したのは、お互いが小学生の時だったと思う。
20年ぶりに会った兄は身なりこそ小奇麗にしていたが、どこか胡散臭くて相変わらず暴力の香りがする人だった。
突然の再開に私はパニックになり、まともに会話ができず、聞かれるままに近況の報告等をして、すぐに別れた。
別れる間際に、兄が私の腕を軽く叩こうとしたが、私が強張る素振りをしたので、兄は寸前で手を止めた。
兄は苦笑いをして、結局手を降って別れた。
地元の外の友人に、「不良漫画の世界みたいだ」と言われた事もある。
兄は喧嘩が強く、それこそ漫画のような武勇伝を幾つも持ち、地元の不良なら知らない人はいない、そんな田舎不良界の有名人だった。
そんな有名人を兄にもつ私はといえば、不良でもなく、かといって勉強もスポーツもできない地味な奴で、スクールカーストの底辺、いわゆる「2軍」だった。
兄が地元にいる間は年上の不良に「有名人の弟」としてたまにチヤホヤされ、兄が地元を離れ、年上の不良達が卒業し、同世代の不良達が幅をきかせだすと私は「有名人の弟だからって調子に乗っている奴」となり、いじめられた。
毎日のように不良に呼び出され、同級生や名前も知らない他校の不良と「タイマン」を強制された。
「有名人の弟」として私をチヤホヤしていた年上の不良が、話を聞きつけて、私をいじめる不良達を叱りつけたが、いじめが陰湿なものに代わるだけで、いじめは私が地元を離れるまで続いた。
私はずっと兄を恨んできた。
兄のせいで自分の人生は台無しになったと、何もかも兄のせいにして、兄への恨みを糧に生きてきた。
20年ぶりに会った兄は
「俺がいなくなってから、大変だったんだってな。お前には悪いことしたな。」
と事もなげに言ってきた。
家に帰ってから、ずっとその言葉が頭のなかで勝手に繰り返される。
胃が重たい。吐き気がする。
「兄の弟」として生きてきたように思う。
何もかも兄のせいにするのはとても楽だから。
私がうじうじと引きずり続けた事なんて、兄にしてみれば少々心を痛めた程度の事。
分かっていたが、実際に兄の口から言葉にされて、自分がとてつもなく空っぽだと気付かされた。
何を恨んで生きていけばいいのかわからない。
兄と会いたくなかった。