2015-05-03

日本公共の福祉

         主    文

     本件上告は之を棄却する。

         理    由

 辯護人後藤橘上告趣意書の要領は、第一點原審判決は審判の請求を受けない事

件につき判決を爲した、同第二點本件は原審第二回公判に於て證據として援用した

證據書類に付き取寄決定をしていない、同第三點原審裁判被告人に證人に對する

審問權を抛棄せしめ且被告人自白強制し其の自白有罪の證據とした憲法違反

裁判である、第四點原審裁判所は本件被告事件に證人たるべき身分を有する判事

を其の構成部員として裁判して居り全く憲法裁判に弾劾主義を採用した根本義に

反する無効裁判である、第五點原裁判公判に於て取調べない證據を断罪資料

供した不法がある計りでなく本件は被告人自白以外に其の犯行を認むるに兄る證

據がないのであるから断乎無罪の言渡を爲すべきに有罪裁判をしたのは憲法違反

無効裁判であると謂ふにある

 按ずるに第一點論旨の具體的内容は要するに(イ)本件公判請求書には司法警察

意見書記載の犯罪事實を其儘引用して居るが斯の如きは人權尊重を高唱している

憲法施行後は許さるべきでなく従て適法公訴の提起があつたものとは認めら

れない(ロ)原審検事司法警察意見書に記載の犯罪事實を引用した公判請求書

に基き審判の請求をしたが右意見書には被告人が賍物たるの情を知るに至つた經緯

の具體的記載を缺いているので結局刑事訴訟法第二百九十一條の要求する犯罪事實

の開示は無かつたことに帰し原審は審判の請求を受けない事件につき判決を爲した

事に帰着すると謂ふにあるが(イ)検事公判請求書を作成するに當つて便宜司法

警察官意見書記載の犯罪事實を引用したとて又公判に於て検事が斯くの如き公判

求書又は之に引用せる司法警察意見書に基き犯罪事實の開示をしたとて直ちに

尊重を高唱せる新憲法趣旨に反すると謂ひ得ないし(ロ)刑事訴訟法第二百九

十一條は公訴を提起するには被告人指定犯罪事實及罪名を示すべしと規定して

所謂訴訟物の特定要求している、従つて犯罪事實の記載の如きも其罪名と相俟つ

て如何なる犯罪に付いて起訴があつたのかを知り得る程度を以て足り辯護人主張の

如く一々の犯罪構成要件に付き詳細具体的に之を記載することは必ずしも之を要求

しているものではない、今臟物故買同牙保罪に付いて論ずるに被告人に於て其の臟

物たるの情を知つていた事は之を示す必要がちらうが其記載方法抽象的なるを以

て足り其の情を知るに至つた経路を詳細に示すことは其必要がないのみならず原審

公判に於ける検事公訴事實の陳述の基礎となつた司法警察意見書犯罪事實の

記載を査閲すると被告人が臟物たる情を知るに至つた経路に付いても具体的に之を

記載してあり又多少文法上不備の點はあつても辯護人主張の如く決して意義不明

ものではない、従つて論旨第一點は理由がない

 論旨第二點 原審第二回公判調書に依れば同期日に職權を以て辯論を再開し審理

を續行し所謂取寄決定を爲さずして新法に基く第一審として一人の判事裁判する

鹿児島地方裁判所に撃属中のAに対する窃盗被告事件の記録を同法廷に顯出し之を

證據として援用する旨を告げ且其の證據調を了した上断罪資料に供したこと洵に

明かである、然し同記録は原審裁判所と同一裁判所である鹿児島地方裁判所現存

したものであり他官廳ではないから特に所謂取寄決定を爲すの要はないと解するを

妥當とするので本論旨も亦其の理由がない

 論旨第三點 記録を査閲するも原裁判所に於て被告人に対し證人に對する審問權

を抛棄せしめ又は自白強制した形跡は全くない、従つて之を前提とする本論旨も

理由がない

 論旨第四點 は要するに公判の審理をした判事は該公判調書の作成者と忍むべく

従て日本国憲法施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第十二條の書類

作成者に當然含まれているとの論旨を前提とし原審裁判所構成員たる判事河野

烏は原審が其の第一回公伴調書を採つて以て原判決の證據とした前示Aに對する窃

被告事件の審理の衝に當つた判事であるから公判調書の作成者として被告人

請求に基き證人として訊問せらるべき關係に在るので刑事訴訟法第二十四條第五號

に準じて當然原審裁判所から除斥せらるべきものだと謂ふに在るが

 <要旨>公判審理の衝に當つた判事日本憲法施行に伴う刑事訴訟法の應急的

措置に関する法律第十二條の書類作</要旨>成者には含まれないと解すベきだから

諭旨も亦理由がない

 論旨第五點 原判決は原審に於る被告人自白の外前示Aに對する第一回公判調

書を證據として有罪判決を爲したこと原判決に依り明かであり右Aの公判調書に

付いても適法な証據調を爲した事原審第二回公判調書に明かである尤も同調書には

右記録(前示Aに對する窃盗被告事件の記録)を法廷に顯出し被告人に對し其要旨

を告げ意見辯解の有無を問ふた旨記載してあるに止り特に證據として判決に援用し

た前示第一回公判調書の要旨を告げた旨の記載はないが右被告事件記録の全部に付

き其の要旨を告げ意見辯解を求めたこと前説明の如くである以上該記録の一部であ

る第一回公判調書に付き其の要旨を告げ意見辯解を求めたこと明かだから公判調

書の證據調は完全に履践されたものと謂ふべく木論旨も亦理由がない

 然らば本件上告は其の理由がないので刑事訴訟法第四百四十六條に則って主文

通り判決する

 (裁判長判事 筒井義彦 判事 青木亮忠 判事 畠山成坤)

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