人生初めての民宿は、 大叔母さんの家の匂いがした。土間の懐かしい匂いだ。部屋数は普通の家にしたらはるかに大きいし、給食室のエレベーターっぽいものも廊下にあるけど、ここは他所の人のお家なのだ、旅館ではないのだと民家の匂いが教えてくれる。
家の人に案内されて、二階の部屋へ。
案内してくれる人の話が、半分くらい聞き取れない。行く前に一方を入れた時は電話口だからと思ったが、ここまでくると俺でも気づく。訛りなのか早口だからなのか。電車とバスを乗り継いで6時間。バスのあんちゃんとテレビのアナウンサーは標準語だったのだが。。
温泉で旅の埃を落とし、畳部屋から襖続きになっている窓側の洋間の椅子でうつらうつらとしていると扉の向こうから声を掛けられた。夕食の時間になっていた。
しきりに断る女将さんの料理は美味しくて、そして食べきれないほどの量があった。
どれから食べようか迷って、少しづつ口をつけるうちに、レンコンの歯応えからふと祖母の手料理を思い出した。
ここの人はハレの日をどう思っているのだろう。
料理を次の三つに分けてみた。
昔の人にとってのご馳走。
天草の酢の物やネギがたっぷり入ったお味噌汁。おひつに入ったご飯。
郷土料理。
赤目鯛の煮付け。めちゃくちゃ甘い。頬っぺたが落ちそうなほど甘い。
あ、これもご馳走だわ。
和食を作れる人間が周りにいないので、週一で大江戸屋の魚の煮付け定食を外食して舌が慣れた身としては、この甘さが顔が綻ぶくらい懐かしい。いや、本でしか知らない懐かしさだから、これは疑似体験なのだろうけど、2015年の今体験できると思わなくてひどく可笑しい。