2015-02-28

父のくそぽえむ

 父は還暦近いが思春期少年少女並みに夢見がちで、情緒不安定な性質である。加えて頑固で寂しがりときた。要するに現代社会では大変生きにくい。

 常は酒に飲まれたり、風呂トイレ中島みゆきファイト吉田拓郎今日までそして明日からを熱唱したり、あるいは衣装ケースの奥底に二重底で隠してある女教師ものAVを眺めては心の均衡を保っているものの、ストレスがある一定ラインを越えるとSOS信号よろしく私の携帯メールアドレスへ謎の散文を送ってくる。実家にいる母や妹には一度も送ったことがないという。「うちの妻は芸術理解しない。」知るかよ!

 散文の形式は多様である相田みつを調、ラーメン屋格言風、難解な言い回しをしたかと思えばストレートI LOVE YOU冷蔵庫で真っ茶色になった馬肉を見つけた寂しさから黄昏流星群を読んで死にたくなった切なさまで、表現豊かに語られる父の詩的世界をはじめの頃は読んですぐ消していたが、ある時「これ寝かせてみたら面白いんじゃねえの、ちょっと取っておいてみっか」と何の気なしに溜め始めた。

 保存用フォルダ名前は「くそぽえむ」。今や一冊詩集をつくれる程度にはメールがたまっている。

 そして今夜もくそぽえむが送られてきた。この時期は毎年ぽえむの量が増える。昔よりも落ち着いたとはいうが、やはり春闘は辛いらしい。

『ぷぽぽぺん ぱふぱふ

 送られてきてから時間経つが、どういう意味かさっぱりわからない。しか情緒がやられているのは確実なので、電話を掛けるのも躊躇われる。

 ぱふぱふの横では、ひよこの絵文字が無邪気におどっている。

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