フランス社会党のブレーンだというし、『21世紀の資本』の主張自体、リベラルのものとしても極端な部類だ。
それなのに保守、新自由主義に与しているくせにピケティの威光にあやかろうとしている連中がいる。
例えば竹中平蔵とかね。言わずと知れた小泉政権下での新自由主義の実行者。
この男が週刊ダイヤモンド(2015/2/14)のピケティ特集で『21世紀の資本』の支持率70%だという。
ピケティのいう格差を、自らが作り出した正規・非正規の格差に読み替え、だから正規社員もなくしてしまえ、と。
こう書いてしまうと噴飯ものだが、竹中は口がうまいから、これまでやってきたことや政治的な立場を考えないと一瞬まっとうなこと言ってるのかと思わされてしまう。
正規・非正規の格差が問題なのは確かで、リベラル寄りの飯田泰之も上位6割と下位4割の戦い、みたいな言い方をしているしね。
でも竹中はただただ企業に利せようとしているだけ、実際はピケティとは正反対のところに立っているわけだ。
ピケティが安倍的なるもの(なんて言い方をしたら喜んで噴き上がるのがいそうだが)に対して批判的なのは政治的な立場から明らかだ。
でも一応アベノミクスについてはどうか、と考えてみる。
アベノミクスで実行されたものの中で大きなものは金融緩和と消費増税だろう。
消費増税は収入が少ない層の負担が大きいため、ピケティは反対の立場だ。
消費増税を決めたのは民主党政権だが、自民党も賛成していたし、反対の声が大きい中で実行を決めたのは安倍政権だから、責任は当然大きい。
ただ、格差への影響以前にせっかく表面上よくなっていた景気が予想を超えて後退してしまったため、10%への引き上げは先送りにした。
金融緩和についてはどうだろうか。
ピケティはインフレ自体については肯定的な言い方をよくしている。
「ピケティはアベノミクスを否定していない」とする人たちの論拠はここにある。
「富の集中? もっと重要な問題がある!」:日経ビジネスオンライン
我々経済学者は日本の経験とアベノミクスを注視していますが、「お金の創出」を増やすことだけでインフレの「再創出」に果たして十分なのか、確信が持て ません。消費者物価におけるインフレを生み出そうというなら、一番有効なのは恐らく賃金を上げることでしょうね。まずは公的セクターから賃上げをすること です。
週刊東洋経済(2015/1/31)51ページより
ー日本はどちらかといえば金融政策に頼りがちです。アベノミクスは資産バブルを誘発しています。
ピ そのやり方は間違いだ。われわれは税務政策に比べ、金融政策に対してあまりに高い期待を持っている。日本にとっては、欧州や米国と同じように、金融政策は魅力的だろう。何十億円もの紙幣を印刷するのは簡単だからだ。一方で税制を変えるとなると、計算表を作る作業が膨大で富裕層の反対も受けるし、事態はより複雑になる。だが税務政策が最も透明性が高いといえる。紙幣を印刷しても、何らかの利子率を下げたりすると、特定のセクターがバブル化したり、必ずしも富ませるべきでない人を富ませることになったりする危険がある。
ピケティ『21世紀の資本』訳者解説 v.1.1 http://cruel.org/books/capital21c/APPikettylecture.pdf の21ページで
とした次の22ページで
•実は、過去(20世紀半ば)に効いて今後も使える手法は、もっと挙がっている。
–経済成長
–インフレ
–累進所得税
–相続税
•困ったことに本書は「グローバル累進資本税と比べるとこれは欠点がある」と言って、他の手法の有効性を認めた次の文でかなり徹底的にdisってしまう。だからそれが否定されているように見えてしまう。
「インフレ」とかなってるけど徹底的にdisられたのって金融緩和のことでしょ。
「否定されているように見えてしまう」っていやdisってるんでしょ笑
やらないほうがいいとまでは言ってないって意味だと思うけど、累進資本税の代替としてのそれは否定してるんじゃん。
だからピケティは金融緩和策については懐疑的、少なくとも不十分と何度も言ってるわけ。
つまり、金融緩和策その他の方法に頼って累進資本税なんて到底やる気がない各国政府のスタンス、政策に対しては当然批判的ってこと。
「好きなほうだけつまみ食いしいてる」って笑
山形は翻訳者のくせに自分の都合の悪い部分を黙殺してるんじゃねーか。
好意的に見れば山形はクルーグマン信者だから金融緩和政策を過大評価しているがゆえにピケティの置く重点をとりそこねている。
でもまあ普通に考えればポジショントークの歪曲でしょ。本業は大手シンクタンクの研究員らしいし。
ピケティが重視する具体的な財政策による再分配に消極的ってことは安倍が明言した。
東京新聞:首相、ピケティ氏意識 格差是正へ「再分配」より「機会の平等」:政治(TOKYO Web)
首相はピケティ氏の考えに対し、一月の衆院予算委員会でも「分配だけを考えればじり貧になる」と反論している。施政方針演説では、ピケティ氏の名前や主張には言及しなかったが、その考えにはくみしない立場を明確にしたといえる。
再分配の比率を上げた結果、景気そのものが後退してしまえば結局分配される量が減ってしまう。
安倍を支持するわけなんかないけど、この言い方だけとってみれば「ピケティはアベノミクスを否定してない」とか言うよりはよっぽどまともなんじゃん。
個人的にはピケティのグローバル向けの汎用的な処方箋が仮に実現したとしても、日本にどこまで効くのかなと思ってる。
物質的に行き渡った社会に対して新しい価値が生み出せないっていう日本の弱点は90年代にすでに顕在化してしまっていた。
少子化、年金、地方その他の問題についてすでに手遅れになってしまってもなんの手も打とうとしない、この先送り体質も日本特有のものなんじゃないかな。