今朝、嫌な夢を見た。
それはフラッシュバックのような断片的な夢の集まりだった。最初は自分を第三者的視点で眺めている夢だった。ビデオの早送りのように自分の生活が映し出されている。会社、家、会社、家、たまに土日、まれに飲み会。それはちょっと年式の古いガソリンエンジンのアイドリング時のノイズのように、不安定さの中に一定のリズムを保っていた。そしてそれが改善する見込みは全くないように見えた。
次の夢では、床に古びた大判のハードカバーの本が置いてあった。布地の装丁の青い本だ。表紙が伏せてあったので裏返してみると「人生、思い通りに生きるのが一番の幸せ」と金箔でタイトルが刻まれてあった。著者の名前は自分の本名だった。言っていることは一見立派だが、実質を伴っていない点、むしろ安っぽく見えてしまう点で今の自分にそっくりだった。
また次の夢。グレイトフル・デッドのように小型のバンで各地を回るミュージシャンになっていた。暮らしは厳しいが毎日が楽しい。ギターは現実でも夢の中でも顔から火が出るほど下手くそだったが、夢の中ではグルーヴという謎のキーワードで裏打ちされて一定の評価を得ていた。
どこで足を踏み外したのだろう。自分は自分の好きなように生きると大昔に決めたはずだ。今は派遣社員として見事に社会の歯車にハメられている。なぜだ。なぜ抜け出せない。
気が付くと監獄か囚人の移送車のようなところで寺沢武一の「コブラ」の主人公と2人きりになっていた。「困ってるようだな。現ナマで30万持ってきな。あとは何とかしてやる。」と頼もしそうにコブラは言った。30万? はした金じゃないか。一瞬そう思った。しかし次の瞬間、バブルの余韻から抜けだせず、会計をなんでもクレジットで済ませている自分に気がついた。30万だと? 俺は今同じくらいの借金をしてるじゃないか。これか。これを止めればいいのか。こんな生活が俺を歯車にハメていたのか。
たった30万で何ができるっていうんだ。そう訝ってる俺にコブラは言った。
「心配すんなよ。任せておけ」
俺は答えた。
夢のお告げを信じるなどバカげているかも知れない。世には1億貯金しようなどという連中がいる中で30万の貯金など噴飯物かも知れない。けどいいんだ。どうせこのままだと同じ生活の繰り返し。信じてみようじゃないか。俺は生まれつき毛色が薄く、天パで猿顔をしている。俺はあんなにカッコよくないが、昔から、彼には一定の親近感を得ていた。あれは俺の中にいる別の俺だったのかも知れない。
今度こそ、今度こそ抜けだすんだ。この同じ循環から。