中村文則は人に進められて「掏摸」を読んでから文庫本を買いあさり、出てる文庫本をこの本で全部読み切った。「楽園」は単行本で読んで失望した。
まず主人公が暗い。
大体が人間失格の葉ちゃんくらい暗い。
自分は世界の後ろ暗い部分、間違った部分、善良な人間に顔向けできない部分に属していることを自覚してうだうだ悩んでいる。
その理由はいろいろあるけれども、生まれつきだったり環境だったり衝撃的な体験の影響で、汚れたり変わってしまったり、あるいは自分は本質的に邪悪なのではないかと考えたりしているのだ。
その結果人を殺したくなったり、自分は人を殺したいのではないかと考えたり、殺したり、こんな自分は死んだほうがいいのではないかと考えたりしている。
最近の作品の傾向と思いきや、デビュー作の「銃」も警察に追い詰められていくサスペンス調の展開なのでこの作者の本来の持ち味なのだろう。
物語は常に暗い影がつきまとう陰鬱な展開のもとに進んでいくので、読んでいるとバッドエンドにたどり着くことしか考えられなくなってくる。
しかしたどり着く結末は明るい。
どちらかと言うとドブの中で前向きに進んでいこう、自分はどうしようもないクズでもそれでも生きていこう。物語はそんな終わり方をする。
(たまに破滅的でどうしようもない終わり方をするのが混じっているのでそれにあたっても文句は言わないで下さい)
「悪と仮面のルール」は話題になった掏摸の次に書かれた小説だが、
今書いた特徴全てに当てはまる、典型的な中村文則の小説といっていい。
・主人公は11才の時に頭のおかしい父親に世界に悪いことを為す存在「邪」になるように育て、14歳で地獄を見せると脅かされる。
・それ(地獄)に利用するために一緒に育てられた少女を守るために13才で父親を殺す。
・数年後、顔と身分を変えた主人公は探偵を使って現在の少女を探しだすが、大人になった彼女に対してなぜか悪の手が次々と降りかかるので父親と同じように殺す。
もちろん他にもいろいろあって、と言うか登場人物がちょっと多すぎるくらい居てそれぞれと主人公の関係性で話が展開する。
整形外科とのくだりだとかは結構好きだ。しかし人物が多すぎて少し掘り下げが散漫になっているのは間違いない。
で、何がラノベなのかというと作者が巻末にも書いている
これはまずい。
こういうやり方は人間を書く方法論じゃない。なのでこれでは文学ではない。
実際に存在しない物を物語世界に持ち込むことはこれまでもいろんな人にやられているし、それが物理法則とかであれば別に問題ない。
しかし、「人間の心に関わる法則」を「これはこういう世界ですよ」という形で物語世界に持ち込むのはレッドカードだろう。
そういうふうにすると、作者が登場人物を人間としてではなく人形として描くことになる。
それではキャラクターだ。なのでキャラクターを描くことに注力しているラノベに類似点を見出してしまった。
あと人間に関する法則を作者が作って世界観とする作品として真っ先に「ひぐらしのなく頃に」を思い出してしまったということもある。(ラノベじゃないかな)
俺的には最後まで読み終わってあとがきを読んで、「ああこれはラノベだったのか。」と腑に落ちた。
この作者は基本的に真面目な話ばかり真面目に書いているが、短編の「ゴミ屋敷」だとか「戦争日和」、あとこの「悪と仮面のルール」に出てくるテログループJLの活動みたいに、不条理なブラックユーモアを全面に出したラノベチックな長編作品が読みたい。